現在、韓国の国会はメディア関連法案をめぐって紛糾しております。この法案が通ってしまうと大手新聞社や大企業が放送メディアに進出することが可能になってしまうため、野党がそれに対して猛烈に反対しているわけです。
でも考えてみると、日本のテレビ局というのはほとんど大手新聞社の系列なんですね。それもかなり昔から。もしかすると、李明博政権が進めようとしているメディア政策というのは、韓国メディアを日本のようにしてしまおうということなのかもしれません。
こちらはハンギョレの東京特派員が日本の放送局の構造について、韓国の読者にわかりやすく解説した記事です。どうぞ。
「1公営多民営」な日本の放送局
5つの民法のうち3つは「新聞社の系列」
政府の目を気にして娯楽性報道競争
»テレビ朝日本社の全景。
日本のテレビ放送は、構造的に胎生的限界を有している。放送事業者の免許権を総務省が扱い、放送局の設立から放送法改正まで主導するため、放送局としては政府の目を気にせざるをえない。日本も敗戦直後、かつて電波管理委員会という独立行政機関で免許の許可などを管掌していたが、1952年に郵政省(現在の総務省)の政府傘下に関連業務が引き渡された。
»フジテレビ本社の全景。
当初から放送法に新聞の放送進出規制がなかった日本では、1957年に田中角栄郵政相(当事)が新聞社にテレビ放送事業を許可して以降、雨後の竹の子のように新聞-テレビ放送の兼営が広がった。公営放送のNHKと5つの民営体制という1公営多民営体制が固定化したのだ。民法の場合、『朝日新聞』-『テレビ朝日』、『読売新聞』-『日本テレビ』、『日本経済新聞』-『テレビ東京』など3社が新聞社を大株主としている。放送局の規模が拡大しながら『フジテレビ』が親会社だった『産経新聞』の株式を39.99%保有するなど、関係の逆転現象も起こっている。『テレビ朝日』は昨年、239億円を『朝日新聞』に出資した。同志社大学の浅野健一教授は、「兼営により世論の多様性が毀損されている」として、新聞の支配力の下にある1公営多民営体制の問題点を指摘した。
大株主である新聞社が、系列放送局の編成や報道内容に直接関与することは多くはないが、「天下り」社長や、自社の記者が系列の放送局の番組に出演することなどによって影響力を行使している。最近、『テレビ朝日』の社長に創業以来初めて放送局出身者が任命されたが、それが話題になるほど天下り社長は慣例化している。
民営放送局は最近、総選挙を控えた重要な時点で芸能人出身の知事の政治的発言を詳細に競って報道するなど、本末転倒の興味本位な報道で視線を集めたりもした。先の2005年の総選挙のときは小泉純一郎首相(当事)が主唱した「郵政民営化に賛成か、反対か」という選挙イシューに関連したニュースを中継放送さながらに報道し、自民党圧勝に「貢献」した。
特に、「信じようと信じまいと」というふうな北朝鮮関連の報道は、日本の民放の専売特許だ。『テレビ朝日』は先月、金正日委員長の後継者として注目されている三男の金正雲の偽写真を「特ダネ報道」し、大恥をかいた。しかし、報道局長など幹部3人を口頭警告するだけという手ぬるい懲戒に終わった。日本人拉致被害者家族会の蓮池透・元事務局長は、先月、『ハンギョレ』とのインタビューで「日本の放送局は北朝鮮関連の報道を芸能娯楽レベルで扱っている。免許権を持っている政府の目を気にしている側面もある」と皮肉った。
東京/キム・ドヒョン特派員
『ハンギョレ』2009年07月13日
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加害者は忘れられ、被害者は獲物に
『ハンギョレ21』[2009.07.13第768号]
[表紙物語]愛と暴力の間を行き交う大衆の関心
小さな噂まで拡大再生産され、2次・3次被害に苦しむ芸能人
▣イム・インテク
»「チャン・ジャヨンさんの死、聖域のない捜査を」韓国性暴力相談所、韓国女性団体など、女性団体の会員たちが3月18日、京畿盆唐警察署の前で徹底した捜査を求めて記者会見を開いた。写真/聯合=キム・インユ
2005年1月、いわゆる「芸能人Xファイル」が暴露され、芸能界が衝撃に襲われた。登場人物をめぐって社会全体に噂が流れ、道徳や倫理を裁断した。芸能人個人を超え、職業自体が「人権水没地帯」に不可抗力的に追いやられていることを如実に表わしていたそのときほど、芸能人が一体になって反発した事例は、その以前にも以後にもなかった。ところが、加害者である第一企画と被害者との間で合意が交わされたという事実を除いては、誰もその「以後」を知らない。この事件の起承転結は、芸能人の人権搾取という特殊な構造と、問題解決の限界を象徴している。
『ハンギョレ21』が取材した結果、当事の芸能人Xファイル訴訟をもみ消すために、第一企画が芸能人のプロダクションに提案した合意金が、韓国芸能マネージメント協会の創立追加資金として、そっくりそのまま使われたことが確認された。
当事、被害者側の芸能人が所属していた45のプロダクションは、非常対策委を組織し、芸能人Xファイルを作った第一企画を相手に名誉毀損、業務妨害などを理由に集団訴訟を提起した。告訴人は59人の芸能人だった。最初は10億ウォンを提案した第一企画は、非常対策委と水面下で交渉し、「芸能の発展という名目」で12億ウォンの提供を約束して合意に至った。結局、訴訟は提起から20日余りで取り下げられ、芸能人初の「広告ボイコット」も撤回された。
「芸能人Xファイル」事件の合意金の行方
「権力者たち」の間で、損益計算も迅速に行われた。合意金は被害者であり、告訴人である芸能人の代わりに、所属するプロダクションの利益導出、マネージャーの処遇改善などを事業目標にした協会結成に転用された。国内最大の広告企画社が、数百人の芸能人に対して主観評価として値段をつけた「暴力詳述」、悪質な噂まで寄せ集めてまとめた「人格殺人」もあっという間に忘れ去られた。
韓国芸能マネージメント協会のホン・ジョング副会長は「合意金は芸能人に問いかけ、協会結成や今後の事業基金に使うということに同意を得た」とし、「プロダクションのサービスや質を高めることが芸能人(の処遇)を高めることになるという意見を集約した」と話した。当事、非常対策委員会(非対委)に参加したあるプロダクションの代表は、「社会に寄付しようとしたり、合意自体がだめだという意見もあったが、埋もれてしまった」と話した。
このように芸能人自身の人権問題に対する最初の組織的対応さえ、一度きりの「パフォーマンス」に帰結してしまった。スター級の芸能人でない限り、広告主や所属プロダクションに服従するしかない転覆不能な構造のせいだ。
だから法が入り込む余地は狭い。実際に、当事訴訟を代理した法務法人ハンギョルは、第一企画はもちろん、非常対策委からも事実上排除された。ハンギョル側は「(第一企画が合意のために)公式的に接触せず、(プロダクションの代表たちに)個人的に接触している」と当事の記者会見で明らかにした。ハンギョルのユン・ボンナム弁護士は、「当事、非常対策委から、合意したので取り下げるという指示が下ったのがすべて」だと語った。
法も「2次被害」を防げず
法が芸能人の味方になることは難しい。芸能界で個人ができる選択自体が、権力者が作った秩序の下でのみ可能なためだ。その絶頂が性上納であり、チャン・ジャヨンさんだったが、それさえも不十分な捜査で終わってしまった。当事、酒宴・寝所の強要、暴行、名誉毀損などの容疑で20人が走査線に上がったが、ドラマPD、金融家、プロダクション代表など5人しか立件されず、問題になった。警察はチャン・ジャヨンさんの所属プロダクション元代表のキム某(40)氏を7月3日に召還し、内偵捜査中止者4人などに対する補強捜査を行う方針だ。いわゆる「チャン・ジャヨン・リスト」に挙げられた人物に対する接待を強要したのか突き止めるとしているが、すべてが明らかになるかは不明のままだ。
芸能人の人権侵害が日常化し、解決が困難な上に、その過程で2次・3次被害が加わるのには様々な理由がある。
何よりも芸能人という職業柄、人権を完全に守ることは難しいということに大部分が同意している。大衆の関心を最重要視しているためだ。関心は「愛」と「暴力」の境界線を行き交う。この過程でメディアの暴力が主導的に介入する。扇情的報道だけでなく、些細な噂まで拡大再生産し、真実として粉飾するためだ。
歌手のナ・フナさんの事例が代表的だ。彼は一昨年の後半から、数多くの噂に苦しめられた。メディアはとめどなく報道しながらも、ナ・フナさんが公人として直接メディアに打って出て釈明しなければならないと、悠長に忠告したりもした。彼は昨年の初頭、記者会見を開き、芸能人で初めてメディアを直接叱責した。無責任に噂を拡大したメディアを相手に「直接見せれば信じてくれるのですか」と怒りをあらわにした。加害者であるメディアは、それ以上の関連報道はしなくなった。しかし、前後の企画公演をキャンセルするなど、一切の対外活動を中断したナ・フナさんがあらゆる被害を被った。
イ・ドンヨン韓国芸術総合学校教授(伝統芸術院)は、芸能人の人権の特性を、△保障の概念よりも侵害の概念が強く、△侵害の過程で特定事件がメディアにより誇張されて媒介され、△媒介の過程で言語による情緒的暴力が深刻に現れる、とまとめた。そして「芸能人の人権問題は、個人の私生活を保障することも重要だが、個人の私生活がメディアにより、どのように侵害され、歪曲されるのかと深い関係がある」と語った。
法に任せたとしても、「2次被害」を防ぐことは難しい。これは歌手のペク・ジヨンさんに象徴される。元マネージャーのキム某(45)氏がペク・ジヨンさんとの性関係を隠しカメラで撮影し、流布した。人気の高かった2000年11月のことだった。様々なメディアが特集し、事件を拡大再生産した。ビデオ流布の背景とは関係なく、大衆はすでに扇情的で表皮的な報道を通じてペク・ジヨンさんを断罪した。被害者のペク・ジヨンさんは記者会見で涙を流して謝罪した。そしてすべての芸能活動を中止しなければならなかった。
また、6年以上に渡って芸能界から干された。その間、2度アルバムを出し、再起を試みたが、放送局から徹底的に無視された。当事、弁護を担当したチェ・ジョンファン弁護士は、「放送停止が4~5年にも及んだ」、「抗議の書簡を放送局に送り、直接抗議もしたが、イメージが悪い、保護者が抗議してくるという返答しかなかった」と語った。
「中傷コメントを超え、私生活の操縦まで」
ビデオを流布したキム氏は昨年9月、アメリカで捕まり、韓国に送還された。しかし、「パク・ジヨン・ビデオ」の前で躊躇なくピーピング・トム(Peeping Tom)となった大部分の国民は、この事実をよく知らない。キム氏が名誉毀損容疑などで現在、服役中であることも知られていない。チェ弁護士は「ペク・ジヨンさんが被害に遭った程度くらいは、マネージャーが捕まったことも報道されるべきだった」とし、「そうすればこそ反省となり、学習となる」と話した。実際、大部分のメディアは短信として処理した。しかし、そのしみったれた報道が、ようやく治りかけたペク・ジヨンさんの傷を再びえぐるのではないかと憂慮してのことなのかは不明だ。
ペク・ジヨンさんは最近、服役中のキム氏を許してくれという嘆願書を書いた。しかし、実際にペク・ジヨンさんが再び人気を取り戻したとしても、誰からも謝罪されることはない。
情報の拡散・共有が徐々に容易になるほど、芸能人に対する人権侵害の様相も破壊性を肥大させていく。キム・ジョガンス青年フィルム代表は、「最近、ソン・ユンアさんとソル・ギョングさんの結婚を集団的に反対していたファンたちの動きが悪質な噂、中傷コメントのレベルを超えて、私生活を操縦しようという状態にまで発展したことを示している」と指摘した。奴隷契約、性上納などに代弁される芸能産業の構造的問題も、変わる気配が見えない。逆説的に、今では私生活の露出映像が衝撃的なニュースになることはない。
人権の普遍性と芸能人の特殊性が今も、とある録画現場、とあるオーディション、とあるカフェ、とあるニュースの一編で衝突しているかもしれない。問題は、過去のあらゆる事件の起承転結を見たとき、概して芸能人自身が属するプロダクションも、自分を育てたメディアも、さらには法も、絶対に頼るに値しないという点だ。
イム・インテク記者
演技者5人中1人が「自分あるいは仲間が性上納を強要された」
『ハンギョレ21』[2009.07.13第768号]
[表紙物語]単独入手した韓国芸術人労働組合183人へのアンケート調査…
PD・企業家・政治家など10人余りの「加害者リスト」も存在
▣イム・ジソン/イム・インテク
故チャン・ジャヨンさんの死でその一端が明らかになった芸能界の性上納・接待の実情が、具体的な数値で確認された。残酷な真実だった。演技者183人を対象にアンケート調査した結果、19.1%に当たる35人が「自分、あるいは仲間が性上納を強要された」と明らかにした。5人のうち1人の割合だ。このような事実は、『ハンギョレ21』が単独入手した韓国放送映画公演芸術人労働組合(以下、韓芸組)の「人権侵害実態アンケート調査」を通じて明らかになった。チャン・ジャヨン事件以降、増幅してきた芸能界の人権侵害疑惑が数値で確認されたのは、今回が初めてだ。
「接待の強要」も34.4%に達し
»演技者5人中1人が「自分あるいは仲間が性上納を強要された」(イラスト/チャン・グァンソク)
韓芸組は今年の4月、タレント支部組合員を対象に、人権侵害の実態調査を行った。第2、第3のチャン・ジャヨン事件を防ぐためだった。全タレントの95%達する2000人余りにアンケート用紙を送り、183人の回答が得られた。韓芸組は実態調査と共に「深層アンケート調査」も実施した。性上納・接待・暴行などの人権侵害を受けた演技者に、加害者の名前を書かせた。これによって韓芸組はPD・企業家・政治家など10人余りの「加害者リスト」も確保した。生き残った「チャン・ジャヨン」たちが作成した「第2のチャン・ジャヨン・リスト」だ。
今回の実態調査では、まず「人権侵害や金品の要求を受けたことがあるか(重複回答可)」と質問した。これに対して調査に参加した演技者のうち24.6%(45人)が「直接被害に遭った」と答えた。本人が直接被害に遭わなくても、仲間の被害事例について聞いたことがあるという回答は68.2%(125人)に達した。
続いて具体的な被害類型についての質問(重複回答可)に「性上納」を指した者は、回答者の19.1%に当たる35人だった。「接待の強要」を指した者は34.4%に達する63人だ。これ以外に△金品の要求78人(42.6%)、△暴言・暴行18人(9.8%)、△人格への冒涜72人(39.3%)などもあった。
今年の3月に自殺したチャン・ジャヨンさんが残した文書には、自分が受けた暴行・性上納・酒席での接待の強要などの状況や、PD・企業家・新聞社の代表など、加害者の名前が余すところなく書かれていた。チャン・ジャヨンさんは文書に「私は弱くて力のない新人女優です。この苦痛から逃れたいです」という文章を残した。
韓芸組の深層アンケート調査の結果は、また別の「チャン・ジャヨン」たちが人知れず苦痛に満ちた時を過ごしていることを確認させた。それらの具体的な「加害者」たちの名前を記憶していた。韓芸組は確保した「加害者リスト」まで公開はしなかったが、そこには10人余りの名前が挙がっていると伝えた。加害者の職業は放送局のPD、作家、放送局の幹部、芸能企画社の関係者、政治家、企業家などだ。被害に遭った芸能人は加害者の名前や所属、地位などの情報を書き出した。
重複した名前10人余りを整理した「リスト」
ムン・ジェガプ韓芸組政策委議長は「かなり多くの女優が加害者を明らかにし、そのうち重複した名前が多くいたので整理してみると、10人余りになった」と表明した。PDの場合、地上波放送局3社のPDがすべて挙げられ、そのうちすでに金品の要求などで処罰されたことがあるPDも含まれていた。ムン議長は「リストがあると言っても、被害者たちが出てこないので、具体的な状況を明らかにすることは難しい」、「外部に公開しないまま韓芸組レベルで加害者に警告をする対応のやり方を検討中」だと話した。
チャン・ジャヨンさんの死が一過性の事件ではないことは、相次ぐ事件も伝えている。チャン・ジャヨンさんの衝撃が冷めやらぬ中、新人歌手を強姦し、動画を撮って脅迫したプロダクションの代表が警察に摘発された。6月26日、ソウル地方警察庁広域捜査隊は、所属する新人女性歌手の離脱を防ぐために「性的暴行動画」を撮り、酒席での接待を強要した芸能プロダクションの代表、キム某(47)氏を拘束した。
この事件の被害者は20歳の歌手志望者で、2007年にキム氏と契約を結んだ。その後、プロダクションが指定した住居で監視されながら暮らしていた女性歌手は、挙句の果てに地方公演先のホテルで強姦され、プロダクションはその場面を撮影するという蛮行を犯した。警察はキム氏が「投資するには、性関係を結んだ動画を撮っておかなければならない」と女性歌手を脅迫したと伝えた。動画撮影後も、キム氏は女性歌手に持続的に性関係と性上納を要求した。女性歌手が拒否すれば暴行を加えたり、専属契約書を持ち出して数億ウォンの違約金を強要したと伝えられている。今回の実態調査の結果、63人が示した「接待の強要」も、この事件に登場した。キム氏は自らが運営する江南所在の酒場で、新人女性歌手に放送局関係者、企業家、政治家など「高級客」の接待をさせた。
»チャン・ジャヨンさんは今年の3月7日、自宅で自殺した(左側)。彼女は「この苦痛から逃れたい」と訴えた。7月3日、故チャン・ジャヨンさんが所属していたプロダクションの社長が日本で拘束され、韓国に送還された。写真/(左から)聯合・ハンギョレ=キム・ギョンホ記者
3社移籍しても、全社で不当な要求
高校時代に雑誌のモデルとしてデビューしたAさんの最初のプロダクションの社長は、「お前の何を信じて売り出せばいいんだ」と自分の愛人になるように迫った。40代の社長は、高校生の新人女優に性上納を執拗に要求した。Aさんが拒否すると、プロダクションは彼女に仕事を与えなかった。契約期間の2年間、Aさんは何の仕事もできなかった。Aさんはその後、3つのプロダクションに移籍したが、どこも彼女に不当な要求をした。2社目は、有名なスターも所属する中堅プロダクションだった。そこではマネージャーがスポンサーの提案をした。Aさんがあるドラマにキャスティングされ、ミーティングまで終わらせた状況で、マネージャーが「映画会社のある役員が君を見て気に入ったから、個人的に会おうと言っている」と伝えてきた。なぜその人に会わなければならないのかと問いただすと、マネージャーは「そうしなければ仕事ができない」と脅迫した。結局、Aさんはスポンサーの提案を拒否し、ミーティングまでしたドラマからはその配役が消えた。
有名女優と同じプロダクションに入った新人女優、Bさんの場合は、接待の要求に素直に応じたところ、とんでもない目に遭った。ドラマ出演のために顔を覚えてもらうことも兼ねて、監督との宴席に出ようというプロダクションの連絡を受けてのことだった。プロダクションやドラマ制作者などはBさんに持続的に酒を飲ませた。そして一緒に踊ろうと抱きついてきた。Bさんは逃げ出した。翌日、プロダクションはBさんを怒鳴りながら「契約金の3倍を弁償しろ」と要求した。当事、ショックを受けたBさんは、今まで特に演技活動をしていない。
このような事例は、数人の芸能人の不幸な出来事ではなく、芸能界の「公然の問題」であることを今回の実態調査は立証している。
しかし、絶対的な権力関係の下で権力者の不当な要求を拒絶することは簡単ではない。今回の調査で回答者の62.3%(114人)に該当する演技者が「性上納をはじめ、各種の不当な要求を拒否したため、キャスティングで不利益を被った」と答えた。競争が激しい芸能界で、「キャスティングの不利益」はもっとも効果的に芸能人を締め付ける。これ以外にも16.9%(31人)は人格への冒涜を、9人は陰湿な攻撃・脅迫を、7人は暴言・暴行を拒否の対価として受けた。
「対応したところで、変わることはない」
状況は深刻だが、「公然の問題」はなかなか水面上に現れない。「なぜ法的対応をとらないのか」という質問に対する回答を見ると、芸能人の残酷な絶望があらわになる。53.5%(98人)の回答者が「したところで変わることはなさそうだから」と法的な対応をあきらめたと答えた。残りの20人(10.9%)は「2次被害が怖くて」、14人(7.7%)は「方法がわからなくて」できなかったと答えた。実際に回答者のうち女優の4人は「法的な対応をしたことがあるが、余計に被害を被った」と答え、無駄な憂慮ではないことが言える。「法的な対応で被害救済を受けた」という回答は、2人(1.1%)に過ぎなかった。
法的対応をあきらめる内情は複雑だ。「イメージ」で食べている芸能人にとって、「私がこのような被害に遭った」と暴露することは容易ではない。「法的な対応ができない最大の理由」を問う質問に、まず75人は「キャスティングで不利益を受けるのではないかと怖かった」と答えた。34人は「身上の情報が公開されるのを憂慮した」と答えた。11人は加害者の報復を恐れた。仲間からの非難や爪弾き、ネット上での炎上も人権侵害に立ち向かう勇気を失わせる。
ムン・ジェガプ議長は「現在、性上納、接待など、プロダクション側の要求をすべて拒否してもスターになれる可能性はほとんどない」と語った。地上波放送局のある芸能PDは、「よろしくお願いしますと挨拶してくる新人は、1日だけでも数え切れないほど多い」「金もコネもない新人は、スポンサーになってやるという企業家、出演させてやるという放送局・プロダクション関係者に対して弱者でしかありえない」と話した。
そのため、芸能人たちは苦しんだ。回答者の33.3%(61人)がうつ病になっている。平均的に一般人の15%がうつ障害を抱えていることに比べ、2倍以上の高い数値だ。23.5%(43人)が不眠症、12%(22人)は対人忌避症を患っていると答えた。持続的な不安感を訴えた者も32.3%(59人)だった。13人はアルコール中毒にまで進んだ状態だった。「自殺」だけに表れていた芸能人たちのうつ病の実態だ。この3年間で自殺した女優のイ・ウンジュ、チョン・ダビン、チェ・ジンシルさんなどもうつ病を患っていた。
33%がうつ病、12%が対人忌避症
そのため、すでに芸能人は人権侵害に対して無気力になっている。実態調査で「人権侵害や不当な要求が継続的に発生する理由」を問う質問に、35.5%(65人)は「人権侵害や不当な要求は、どうしようもない大衆文化芸術界の古い慣行」だと答えた。10人中、3人以上が人権侵害を慣行として受け入れたのだ。ある女優は、「古い慣行だという認識があるので、周辺の仲間が性上納などの被害に遭ったようでも、下手に立ち上がることができない」と話した。知っていても内密にする雰囲気だということだ。加害者の処罰自体が軽いという批判もある。回答者のうち62人は「加害者に対する司法処理が不十分なため」誤った慣行が続いていると答えた。4月24日に行われたチャン・ジャヨンさん事件の中間捜査結果の発表でも、大手新聞社の代表など、有力者の名前が抜けた「竜頭蛇尾」との指摘がなされた。55人は「集団的に解決しようという演技者の努力が不十分だった」と自省した。「キャスティングを狙った演技者個人の利己主義」のせいだとした者も57人いた。
多くの若者や子供が芸能人になることを夢見ている。今年の5月、87回目のこどもの日を迎え、『少年韓国日報』が小学生300人を対象に行ったアンケート調査で、女子児童が選んだ将来の夢の1位が歌手、タレントなどの芸能人だった。同じ時期、我々は芸能人183人が証言した人権侵害の現実を見た。この克明な矛盾をそのままにしておけば、チャン・ジャヨン事件のような不幸な出来事が続くしかないだろう。
キム・ウンソク韓国放送映画公演芸術人労組委員長インタビュー
「問題を知らせることも、死ぬほどつらい」
»キム・ウンソク韓国放送映画公演芸術人労組委員長。写真『ハンギョレ21』チョン・ヨンイル記者
2008年5月、彼は剃髪した。芸能人の基本出演料の引き上げ、福利厚生費の支給などを放送局に要求したのだ。そうしてキム・ウンソク(42)韓国放送映画公演芸術人労働組合(以下、韓芸組)委員長は、11代委員長に就任して1ヵ月後に「申告式」を行った。就任から1年が経った頃、「チャン・ジャヨン事件」が起こった。彼は国内で初めて、芸能人を対象にした「人権侵害実態調査」を行った。7月3日、ソウル汝矣島にある韓芸組の事務所で彼に会った。彼は「加害者リストをどう処理するか悩んでいる」と語った。
-実態調査の結果、自分や仲間が性上納を要求されたという回答が、芸能人5人のうち1人という状態だ。この結果をどう見るか。
=率直に言うと、昨日今日の問題ではない。私もやはり放送人になって24年になるが、新人のときからよく聞いた話だ。かつては何もかも内密にして、実態を明らかにすることができなかった。今回の実態調査で、一部でもその数値が確認できた。
-アンケートを実施した理由は。
=チャン・ジャヨン事件が契機となった。このようなことに被害者個人が立ち上がることは難しい。良心宣言をしたくても、これは女優人生だけでなく、残りの人生までかけなければならない問題だ。だから、芸能人個人ではなく、労組レベルで実態を明らかにするべきだと考えた。
-芸能人が話したがらない問題であるため、調査は難しかったのではないか。
=返信用封筒まで入れて、アンケート用紙を郵便発送した。答えることが難しい質問が多かったと思う。それでもそれほど低い回収率ではなかったと思う。仲間の一人はアンケート用紙に「匿名で質問に答えたが、特定の日にあった事件について書けば、自分が誰かわかるのではないかと心配だ」と書いていた。
-深層アンケートを通じて加害者リストを確保したそうだが。
=(リストは)ある。だが女優が加害者の名前を書きながらも、正確に書けば自分の身の上が明らかになるのではと非常に不安がっている。
-リストをどう処理する計画なのか。
=幹部たちと議論している。我々に捜査権があるわけでなないので、措置がとれずにいる。国家人権委員会とも話し合っているが、まだリストを渡してはいない。悩んでいる。もし加害者として挙げられた人の中で、密かに攻撃された人がいれば問題になりかねないので、気をつけなければならない。
-チャン・ジャヨン事件関連の捜査状況をどう見ているか。
=まだ若い女優が自殺までするなんて、どれだけつらかったんだろう。残念だ。考えてみると、死なずにこのような問題を世間に知らせることも死ぬほどつらいだろう。事件の捜査に期待をしたが、そのようなレベルまで捜査がされていないので残念だ。プロダクションの社長も召還されたので、捜査を再開して確実に明らかにしてほしい。
-性上納などの加害者たちに一言言うなら。
=優越的な地位を利用して弱者に何かを強要することが、これ以上あってはならない。加害者たちも家族がいるはずだ。自分の娘、自分の妹がそんな目に遭ったと立場を変えて考えてみろ。もうこんな不当な要求をしてはならない。チャン・ジャヨン事件の捜査によって、加害者に警鐘を鳴らせればと思う。
イム・ジソン記者、イム・インテク記者
私の9ヶ月間の記録をあさる「ゴキブリ」
『ハンギョレ21』[2009.07.13第768号]
[イシュー追跡]Eメールの押収捜査をされたYTN*の記者による寄稿
「勝手に見開いて公開しても構わないと考える、その残忍さと軽薄さに憤り」
#シーン1
ソウル中央地検のチョン・ビョンドゥ1次席検事が文化放送の『PD手帳』
**に対する捜査結果を発表しましたが、実際には捜査結果はすでに少しずつ伝わっていたため、その内容は気の抜けたビールのようでした。この日のハイライトは、『PD手帳』制作陣のEメールの公開でした。チョン次席検事は作家のEメールをはばかることなく公開しました。「『PD手帳』に対する捜査結果」の発表ではなく、「『PD手帳』制作陣のEメールの内容」暴露の場になってしまったのです。検察は、制作陣が顕著に公平性をなくしたことが正しいのかを国民が判断するうえで重要な根拠資料になると考えたそうです。『PD手帳』制作陣の思想や良心を、国民が審判しろということのようです。
»3月22日、全国言論労組YTN支部の労組員たちがノ・ジョンミョン労組委員長など組合員4人の逮捕に抗議し、ゼネスト出征式と決起集会を開いている。写真『ハンギョレ21』チョン・ヨンイル記者
『PD手帳』に対する捜査なのか、制作陣のEメール捜査なのか
法廷で証拠能力を認められるかどうかもわからない内容を、捜査結果の発表の場で公開したことは、理解できないことでした。1年後に捜査結果を出しておきながら、世論に訴えなければならないほど急を要することなのかという哀れみさえ感じました。公開の是非について内部的に苦悩もしたそうです。当然でしょう。私生活の侵害論争はもちろん、通信秘密保護法に違反しないかを調べておくべきことですから。大韓民国の検察が、捜査結果を発表する席で、実定法に違反するなんてことがあってはならないことですから。
しかしもっと根本的な問題は、検察で陳述した内容でもない個人のEメールを、捜査機関が思うがままに見開いたうえ、これを勝手に公開してもいいと考えた残忍さと軽薄さです。Eメールの押収捜査という簡単な方法で被疑者の精神世界をやたらに解体し、都合のいい部分だけをマスコミに公開するなんて…。私にもそのような状況が起こりえたので、胸がぎゅっと締め付けられました。
#シーン2
私は今年の2月からソウル中央地検に出入りしています。毎日ここに出勤し、記事を書いています。ところが6月に、私のEメールを検察がのぞき見たという噂を聞いたのです。調べてみると、検察ではありませんでした。警察でした。警察が押収令状を申請し、検察はその必要性があると判断して裁判所に請求しただけだそうです。参考までに、私は(YTN天下り社長反対闘争の過程で)先輩や後輩20人と共に業務妨害容疑で会社から告訴されたことがあります。ともかく、私の問題は5月に終結しました。そして1ヵ月後にEメールを捜査機関が調べたという事実を知ったのです。
噂では聞いていたEメールの押収捜査。私も知らない間に誰かが私のEメールを探っていったのです。「なぜ?いつ?どんな内容を…?」それを調べる術もありませんでした。ゴキブリ1匹が私の頭の中を掻き回しているような感覚というか…。警察が調べた私のEメールは去年の7月から今年の3月まで、9ヶ月間にも及びます。
記事の原稿も押収捜査されるのではと憂慮
彼らは私の人生の9ヶ月間をまるで録画された閉鎖回路テレビ(CCTV)画面を再生するかのように覗き見たに違いありません。いったいどんな内容を興味深く見たのでしょうか?おもしろい内容があったのでしょうか?警察は私のEメールのどんな部分を見たかったのでしょうか?誰かが密かに指令を受けたという証拠をつかむためだったのでしょうか?私がどんな思想を持っているのか知りたかったのでしょうか?それとも特に関心はなくても、ひょっとすると何かひっかかるかもしれないからと、私の人生の9ヶ月間の記録をまとめて押収したのでしょうか?特に捜査に必要なものでないのに、あまりにも簡単にYTNの記者たちの行動や思想を追跡できるため、Eメールを押収したのではないでしょうか?万が一のためにとりあえずやったのではないか、ということです。私の考えや、私の私生活、私の取材情報、私のスケジュールのことです。
捜査機関に聞きたいものです。大韓民国の国民の人権をこんなに簡単に無視したのには、しかるべき理由があったのでしょう。それは何なのですか?それでも、ある人のようにEメールの内容がマスコミに公開されたわけではない
***ので、幸いだったと思うべきなのでしょうか?検察や警察が当然のように被疑者のEメールをマスコミに公開する人権損失の時代が、もうすぐ来るかもしれませんから。今日、私のEメールから送られるこの原稿も、いつか押収捜査の対象になるなるのではないかと憂慮します。
シンホYTN社会部記者
*YTN 韓国の24時間リアルタイムニュース専門放送局。
**『PD手帳』 1990年5月に放送を開始した文化放送の時事告発番組。2008年に『PD手帳』は米国産牛肉輸入交渉の問題点を指摘し、狂牛病の危険性を伝える報道を何度か行った。特に4月29日の報道は、米韓牛肉交渉に対する反対デモの起爆剤となった。それ以降、一部の内容を誤訳した事実が確認され、これをめぐって相反する反応が出てきた。大韓民国政府、与党や保守性向の新聞(朝鮮、中央、東亜など)は、狂牛病の危険性が誇張・歪曲されたと主張し、野党や進歩性向の新聞(ハンギョレ、京郷、オーマイニュースなど)は些細なミスがあっただけで、政府が交渉を誤ったという本質は変わらなかったと主張した。
***2009年6月19日、検察は『PD手帳』の捜査に関連し、事件の内容とまったく関係のない作家のEメールを公開し、人権侵害論争を巻き起こした。
[東京から]ボアソナードタワーと中核派/キム・ドヒョン
校門の周辺では、大学側に雇われた警備員が険しい目つきで出入りする学生たちの顔を一人一人チェックしている。大学から退学・無期停学など重懲戒された、「ブラックリスト」に載った学生の校内への出入りを阻止するためだ。校内に入ると、建物のあちこちに監視カメラがあるのが目につく。校内にこのような監視カメラが150個も設置されているそうだ。掲示板のあちこちには懲戒者と懲戒理由などを記載した学校側の警告告知事項が数十枚貼られている。先月24日に立ち寄った、名門私立大の法政大学市ヶ谷キャンパスの殺伐とした風景だ。
この大学のキャンパスの象徴的な建物である超現代式27階建ての「ボアソナードタワー」の華やかな外観に隠された抑圧と排除の空気が濃く漂いはじめたのは、3年前にさかのぼる。2006年3月4日、大学当局が学内に政治的内容を載せた立て看板を撤去する過程で、これに抵抗する学生運動家など29人が警察に逮捕された。このうち、法政大学の学生5人が退学または無期停学など重懲戒された。その後、学生たちの抵抗と反発が発生するごとに警察力の投入、首謀者の逮捕、学校当局による重懲戒が繰り返された。
6月8日現在、110人が警察に逮捕され、30人が起訴された。そして数十人の学生が重懲戒された。大学から無期停学処分を受け、学校への出入りが禁止されたクロキ・カズヤ(23)もそのうちの一人だ。彼は「学校側は2000年以降、より多くの学生を誘致するために警察と手を握り、学生運動家を排除しようとしている」と主張した。学校当局と警察側の強硬対応は、当初法政大で勢力が強かった「中核派」(正式名称は革命的共産主義者同盟全国委員会)を狙ったものだ。しかし、一般学生の反発を呼ぶなど、逆効果をもたらしているとクロキは語った。4月24日の抗議集会の場合、1500人以上の学生と労働者が参加した。大阪・広島などの学生も参加した。抗議声明に署名した弁護士は、1週間もたたないうちに170人に達した。中核派は1984年に東京の自民党本部に火炎瓶を投げるなど、「暴力革命路線」を主唱しつづけてきたが、1990年代以降は非暴力労働運動に重点を置いている。
学校側の立場を聞くために、広報課に電話をしてインタビューを要請した。しかし、「インターネットのホームページに掲示された内容を参照するように」との返事しかなかった。学校側は「
一連の事件の経緯について」という案内文で「信条の表現行為についても無制限に認められるものではなく、他者に迷惑をかけないために守るべき社会一般のルールがあります」と度を過ぎた行為には毅然として対処すると表明した。実際に2006年4月以降、立て看板の設置や政治的宣伝物の配布など、政治的表現行為が学内では事実上禁止されているというのが学生たちの主張だ。日本の主要メディアがどういう訳か法政大の事態についてほとんど報道しないことも、学校当局の強硬対応を煽っているように見える。
私も今年、法政大学生の保護者になるかもしれなかった。息子が入学試験を受けたこの学校の合格通知書を1月末に受け取ったのだ。一応、安堵はしたものの、他の私立大に比べ10~20%ほど高い登録金・授業料のため、内心では心配していた。その後、幸いなことに学費が安い地方の国立大学にも合格し、その大学に通っている。
もし息子があのまま法政大学に入っていたら、どんな反応を見せていただろうか。「ボアソナードタワー」の威容を誇っていただろうか、それとも集会と表現の自由が制限された大学の雰囲気に息を詰まらせていただろうか?
キム・ドヒョン特派員
『ハンギョレ』2009年07月06日