日本政治の「革命的変化」/李鍾元
日本の総選挙が明日に迫った。戦後日本の政治史上、初めて国民の直接選挙により政権交代が行われるという「歴史的事件」の日でもある。民主党の勝利は、ほぼ既成事実として受け入れられているという感じだ。最近の朝鮮半島情勢の講演をするために訪れた島根県のある集会でも、民主党の勝利を前提にした「鳩山政権」の外相などの主要閣僚や外交政策の展望に関する質問が相次いだ。ある地方新聞が主催した集まりで、自民党を支持してきた地方の有志が主な構成員だったため、「民主党政権」の方向性に対する憂慮が支配的だった。長年にわたって地域社会に君臨し、地方政界を牛耳ってきた保守層が、突然、目の前に現れた「政権交代」の巨大な波に対して感じる困惑や不安、そして諦念をあちこちで確認することができた。
先週、選挙運動が公式に始まった直後、マスコミ各社で実施された世論調査や情勢分析は、一様に「民主党圧勝」を予測した。総議席数480のうち、300から330議席を占めるという驚異的な内容だった。現在の議席数115議席の3倍近い大躍進であり、改憲のラインを超える巨大与党が出現することになる。一方、自民党は現在の300議席から100議席以下のほぼ崩壊に近い水準の大敗が予想されている。専門家たちが当惑するほど巨大な「政権交代」台風だ。選挙期間中、世論調査の「アナウンス(発表)効果」も今回の選挙で「バランス」(均衡)でない「バンドワゴン」(偏勝)現象が顕著だった。「民主党の圧勝」という報道が、民主党の支持を一層加速化しているのだ。日本社会特有の「大勢順応(偏勝)主義」という指摘もあるが、それほど自民党政治に対する累積した不満が大きいということを示している。昨日、発表されたマスコミ各社の選挙直前情勢調査でも、「民主党300議席以上」の勢いは衰える兆しを見せていない。
鳩山民主党代表は、今回の選挙の意義について「革命的目的を持つ政権交代」と宣言した。日本の政治家が「革命」という用語を使うことはとても異例なことだ。日本の国民は急激な変化を嫌い、安定と安心感を求めるということは、ほぼ常識化している。日本は歴史的に「革命」と称される事件が存在しない、世界史的にも珍しい国でもある。明治維新のような事実上の官製革命も、「革命」ではなく「伝統への回帰」として説明される。鳩山代表自身が「革命」の内容について体系的な説明をしていないが、単純な政治的表現に終わるのではなく、日本社会の巨大な枠の変化、すなわちパラダイムの転換を志向しようとしているのは事実だ。
抽象的だと批判されることが多いが、鳩山代表は「友愛」あるいは「友愛革命」という概念を自分のビジョンとして提示している。祖父である鳩山一郎元首相から受け継いだものだそうだ。その源をたどればフランス革命の「博愛」につながる。これは社会共同体の横の連帯を強調する価値だと言えるだろう。鳩山一郎元首相はこれを資本主義と市場経済の弊害を修正する、健全な保守主義の一つの土台とした。今回の選挙で自民党が苦戦している背景には、小泉政権以降、強行された市場原理の新自由主義の改革が生んだ社会経済的格差や、これに対する反発が決定的に作用している。鳩山代表の「友愛革命」論は、旧社会党系列の社会民主主義とも脈を通ずる側面がある。アメリカのオバマ政権に続き、日本「民主党政権」の誕生は、一世を風靡した市場原理至上の新自由主義に代置する新しい政治経済の日本モデルを模索する一歩として記録されるだろう。
李鍾元/立教大教授・国際政治
(『ハンギョレ』2009年08月28日)
Daumの次はどこへ?
『ハンギョレ21』[2009.07.24第770号]
[特集]「左右のバランス」をとるために『プレシアン』、『ビュース・アンド・ニュース』を排除し、アゴラViewのインターフェイスを使いにくくするなど、氾濫する外部圧力に苦肉の策
▣イ・テヒ
»Daumの次はどこへ?写真『ハンギョレ21』キム・ジョンヒョ記者
7月1日、インターネット・ポータル、DaumのメディアDaumから2つのメディアが消えた。進歩的なネットメディアとしてあげられる『プレシアン』と『ビュース・アンド・ニュース』だ。翌日2日、『朝鮮ドットコム』には「Daum、ニュースサービスから『プレシアン』の記事を除外」という記事が出た。『朝鮮ドットコム』は、Daumが「1日からニュースサービスであるメディアDaumに『プレシアン』で作ったコンテンツをあげていない」と明らかにしたと報道した。
『プレシアン』が抜けた日、『ハンギョレ21』の記者と会ったDaumのある高位関係者は、「少なくない政治的圧力があった」と断言した。その翌日の7月3日、『プレシアン』のパク・インギュ代表とDaumのチェ某メディア本部長がソウルのあるレストランで会談した。2人は『京郷新聞』の先輩・後輩の関係で、普段からよく会っている間柄だ。パク・インギュ代表の話だ。
Daum側、「トラフィック寄与度が低い」
「その席で私が「『プレシアン』が抜けたことが政治的圧力のせいなのか?」と聞くと、チェ本部長は「そうではない」と言った。だから「政治的圧力の有無については後で明らかになるはずだから、ニュースコンテンツとして『プレシアン』の弱点があるなら指摘してくれ」と言った。チェ本部長が「『プレシアン』の記者は事実と意見が混在していて、意見の方が強くて負担だ」と言った。また、「去年の8月以降、メディアDaumから朝・中・東が抜けてから『プレシアン』などの進歩的見解を持つメディアに比べ、保守的なメディアが少なく、政治的バランスをとることも容易ではない」と言った」
パク・インギュ代表は「チェ本部長は政治的バランスをとるという趣旨で下された決定だと言ったが、陰に陽に政治的圧力を感じた結果、『プレシアン』を抜いたのだと思う」と付け加えた。
Daum側は政治的圧力説を否認した。メディアDaumを担当しているチェ本部長は、『ハンギョレ21』との電話インタビューで「パク・インギュ代表に会ったときも十分に説明をしたが、他で解析されていることとは違って今回の決定に政治的理由があるわけはない」、「Daumの内部基準に合わせて決定した事案について、政治的な解析が出てくることには納得がいかない」と話した。チョン・ジウン広報チーム長も「メディアDaumと各メディア間のメディア提携方式に対する価値測定の結果、『プレシアン』と『ビュース・アンド・ニュース』のトラフィック寄与度が低いという評価が出たため、契約を解約することになった」と明らかにした。Daumの対外協力本部も「青瓦台や政府が民間企業に対して、特定メディアを排除しろと圧力をかけることはできない」と断言した。
内部事情は違った。Daumのある役員は、「政府・与党側から保守と進歩のバランスをとる必要があるため、メディアDaumに『ニューデイリー』を載せろという要請を受けたことがある」と語った。実際にDaumは『ニューデイリー』を新しいコンテンツ供給メディアとして登録するかを議論し、留保したと伝えられた。現在、メディアDaumに保守的インターーネットメディアとしては『デイリアン』だけが登録されている。あるメディア担当記者は、「『ニューデイリー』は2007年の大統領選挙の過程で『デイリアン』から分かれてできた」「『デイリアン』が「親朴槿恵」的な性格が強くて、『ニューデイリー』は「親李明博」的な性格が強いと見ればいいだろう」と語った。政府・与党から『ニューデイリー』のコンテンツを供給するようにしてくれと要請されたことは「親李系メディア」を支援しようという意図もあると解釈できる。Daumの他の関係者は「政府から持続的にメディアDaumの政治的バランスをとれと圧力的な要請がきていた」、「結局、インターネットメディアでは進歩的メディアとして『オー・マイ・ニュース』、保守的メディアとして『デイリアン』のみを残し、『プレシアン』と『ビュース・アンド・ニュース』を抜くことになった」のだと明らかにした。
»メディアDaumにニュースを供給するメディアの名簿(上)。7月から『プレシアン』と『ビュース・アンド・ニュース』はここから除外された。去年の狂牛病政局で、抵抗的なネチズンの空間となったアゴラ(左下)とview(旧ブロガーニュース)は、政府と与党の集中的な弾圧の対象だ。
「朝・中・東」コンテンツの供給を拒否しながらバランスを
「政治的バランスをとれ」という要求は、常に最近の状況を無視した論理が起きないことがない。メディアDaumに進歩的言論が多く残ることになった理由は、「朝・中・東」がコンテンツ供給を拒否したからだ。『朝鮮日報』を中心に『中央日報』、『東亜日報』、『韓国経済』などは、昨年7月に一斉にDaumとの関係を終わらせた。DaumアゴラとDaumカフェを中心に活動する「言消主」(言論消費者主権国民キャンペーン)が行った朝・中・東の広告主の不買運動が、決定的な契機だった。『朝鮮日報』は昨年9月には「Daumが相当期間、我々の著作物を大量に無断で使用し、損害額が少なくとも90億ウォンにいたる」とし、その一部である10億5700万ウォンを支給しろと損害賠償請求訴訟を起こした。
トラフィックを理由に『デイリアン』は残しておき、『プレシアン』を除くことは現実でも合っていない。『プレシアン』はインターネットポータルであるNaverには「オープンテスト」メディアとして登録されている。Naverは最初の画面のニュース編集権を「オープンテスト」という形式で各メディアに引き渡した。オープンテストに登録されたメディアは、全部で35だ。Daumが残した『デイリアン』は、ここに含まれていない。
Daumの役職員は、昨年の牛肉政局以降、陰に陽に外部的圧力が氾濫していると口をそろえた。Daumのある高位関係者は、「キム・チョルグン青瓦台国民疎通秘書官が、メディアDaumを担当しているチェ某本部長にしょっちゅう電話している」、「青瓦台の電話が活発なコミュニケーションである場合もあるが、圧力として感じるのではないか」と話した。キム・チョルグン秘書官は、2006年から2年間、Daumの副社長として勤務した。チェ本部長は「同じ職場で一緒に働いていた者同士だから、普段から電話で話せるのだ」、「圧力として感じるような電話はなかった」と話した。キム・チョルギュン秘書官も「親しい間柄だから、電話を心置きなく話せるんじゃないんですか?」、「会話の内容は極めて私的な内容」だと話した。
Daumの他の関係者は「昨年の中旬から検察や警察からチェ某メディア本部長にしょっちゅう電話がかかってくる。特定掲示板に対する抗議と遮断要請をしたらしい」、「午前1~2時に電話がかかってきたことも何度もある」と話した。チェ本部長も人に話せない事情に気を病んでいるという説明だ。Daumのある元役員も「警察庁のサイバー捜査隊をはじめ、警察レベルでDaumアゴラを監視する要員だけでも70人を越える時期があったそうだ」、「これらが24時間アゴラにあげられる書き込みを検閲する役割を果たした」と伝えた。これらは警察に対する名誉毀損の疑いがある書き込みを見つけ出す一方、特定の政府部署や与党議員を批判する書き込みがあればこれを当事者に通知する役割を果たしたという証言もある。Daumの関係者は「メディア本部で与党の実勢国会議員室から「警察から連絡があったが、あれこれ問題があるので該当の書き込みをすぐに遮断してくれ」という電話がかかってきたことがある」、「警察でこのようなこともするのかと思った」と漏らした。
»ソウル瑞草洞にあるポータルDaum本社2階のカフェテリアで、あるネチズンがインターネットに没頭している。写真『ハンギョレ21』キム・ジョンヒョ記者
Daum法務チームの関係者は、「最近はDaumカフェにあげられている著作権違反コンテンツや猥褻物に対する警察の押収捜査要請が大幅に増えた」とし、「今月の頭から施行された改正著作権法で強化された処罰条項のため、萎縮する雰囲気があるのも事実」だと語った。7月3日から施行された改正著作権法の核心は、「インターネットの三振即アウト制」だ。映画、ドラマ、音楽などを著作権者の許可なしに大量に流布するインターネット掲示板を、文化体育観光部長官が3回警告した後、最大6ヶ月まで停止させることができるようにした制度だ。
Daumに入社して7年目のある職員は、「Daum内部でも抵抗すべきという人たちと、角が立たないように協力すべきという人たちに分かれている」、「平均年齢が30代前半のDaumの役職員にとって、政府の圧力は大きな負担になるのも事実」だと話した。
Daum関係者は「去年の牛肉政局の中心にあったアゴラ掲示板の露出度を減らすために、メインページ下段にあったメニューを閉じ、批判的正確が強かった「ブロガーニュース」も「View」に名前を変えてインターフェイスも使いにくくした」、「その結果、アゴラの場合、ページビューが15~20%ほど減った」と漏らした。苦肉の策だ。
これだけではない。対外協力チームのある職員は、「盧武鉉前大統領の逝去当時、追慕掲示板に書き込みを残すにはログインをした後でタイトルをつけ、本文を書くようになった」、「当事、ライバルのNaverはログインしなくてもすぐに追慕の書き込みができた」と話した。この職員は「追慕掲示板のトラフィックもいろいろな所で分析し、実際よりも少なくアクセスしたように設計した」、「その結果、Naverの追慕掲示板のトラフィックに比べて5分の1程度しか出なかった」と言った。政治的に敏感な領域のトラフィックは、意図的に減らしたという説明だ。
「ブラインド」制度の不合理性
ポータルDaumに対する外部圧力は、Daumの政治性を殺している。創業者であるイ・ジェウン代表は、「多(다)」と「音(음)」の漢字合成語である「多音」をDaumの名前の由来とした。「いろいろ多様な音」を集めるという意味だ。1995年の創業から14年間、「多様性」を天命として考えてきた企業に、「画一性」を求めることが起こっている。Daumの済州島移転は、多様性を求める性格を表わした。Daumは「ソウルへ、ソウルへ」と叫ぶ主流の流れに逆らい、2004年にメディア本部を中心に、済州島へ移転した。イ・ジェウン代表も、ソク・ジョンフン・メディア本部長(共に当事)も自宅を済州島に移し、済州定着に対する意志を示した。済州市梧登洞にあるDaumの「グローバル・メディア本部」では、200人余りのDaumの職員が働いている。
政府からの外圧の対象になったアゴラとブロガーニュース(現在の名称は「View」)は、TVパットと共にDaumが済州島で作った3大作品だと自評してきた。Daumは現在、カフェやブログ、アゴラ掲示板の書き込みに対して外部から異議や抗議がきた場合、すぐにアクセス制限をしている。「ブラインド」制度と呼ばれるこのアクセス制限措置をされた書き込みは、30日間、内容を見ることができなくなる。著者も同じようなものだ。Daumの法律チーム関係者は「ブラインドとなった書き込みは、書いた人が放送通信委員会から「名誉毀損ではない」と判断された場合、アクセス制限を解除している」、「しかし、放送通信委員会が個人からはこのような要請をされることがほとんどないため、事実上、ブラインドを解除できる方法はない」と話した。この関係者は「書き込みをした人は、遮断されたことに対して不満もあるだろうが、名誉毀損されたと考える当事者も不満があるもの」だとし、「Daumはその均衡点を見つけるために努力している」と話した。
右側に追いやる外部の圧力のせいで、その「均衡点」がむしろ崩れているのではないだろうか。
イ・テヒ記者
日本の総選挙とマニフェスト/李鍾元
8月30日に予定された衆議院選挙を控え、日本列島は暑い8月を迎えている。そのうえ戦後日本の政治史上初めて、選挙による政権交代が実現する可能性が高い選挙だ。まだ公式的な選挙運動期間は始まっていないが、関心と熱気が徐々に高まっている。先週、講演を兼ねて訪問した札幌で会った民主党の関係者は、「北海道全勝」の可能性まで言及した。旧社会党時代から、農民層の支持を基盤に伝統的に野党が強く、現在も民主党が多数派を占めている地域ではあるが、それほど「政権交代の風」が強く吹いているという意味なのだろう。むしろ民主党に吹く風が強すぎて、その反作用が起きたり、「バブル」のようにはじけてしまうのではないかと心配しているようだった。
もちろん、「風」だけではないようだ。最近は、マスコミでマニフェストという用語に接しない日はほとんどない。各政党が選挙公約を具体的な政策構想として発表するマニフェスト選挙が定着したような感じだ。日本は1990年代以降、二大政党制と政策選挙による政権交代方式が確立した英国をモデルに政治改革を推進してきた。小選挙区制と党首討論などと共に、マニフェスト選挙もその一環だった。もともとの意味は「宣言」、「声明」だが、ここでは政党または候補者が選挙の際に提示する公約と政策構想を意味する。従来、韓国や日本で使われていた「選挙公約」と意味上は同じだが、内容的に単純なスローガンに終わらず、政策目標やその実現時期、方法、財源を具体的な数値目標と共に提示することで、政策の実現可能性と事後検証を可能にするという点が大きな特徴だ。19世紀中頃、英国で始まった選挙マニフェストが日本に導入されたのは、1999年の統一地方選挙のときからだ。一部の改革派自治体の首長候補たちがマニフェストを提示したことを契機に、2003年の総選挙から全国選挙へも拡散しはじめた。
マニフェスト方式をもっとも積極的に活用したのは、統合野党として発足した民主党だった。授権政党としての政策能力を具体的に提示する手段として、重視されたのはもちろんだ。これと共に、旧社会党出身から自民党に脱党派まで党内に多様な性向のグループが共存する民主党が、党内に政策対立を最小化し、対外的に統一した姿を見せるという意味も大きい。実際にマニフェストを打ち立てて何度も選挙を経ながら、「烏合の衆」と揶揄されていた民主党は、授権政党としてのイメージや容貌を備えるようになった。この過程で年金や医療など、生活と直結した社会福祉問題に専門性を備えた「政策通」の民主党議員たちも、新しい類型の政治家として頭角を現した。半世紀以上続いた自民党の「一党優位体制」が弱体化しながら、執権能力を備えた統合野党がどのように形成されてきたのか?この数年間の日本の政治は、興味深い事例を提供してきた。
各政党が競って打ち出すマニフェストだが、その内容の充実度には多くの差異があり、これを詳細に読んで理解する有権者もそれほど多くはない。しかしこれを土台に、マスコミも各政党の政策を比較・分析する報道に比重を置いている。ニュースや時事番組だけでなく、主婦層を対象にした昼の番組でも「マニフェスト放談」が展開されるなど、有権者の政治意識の形成にも大きな役割を果たしている。各政党のマニフェストを比較・評価する市民団体が各地で出てきており、マニフェスト研究所を解説した大学もある。政策は政治家と官僚に任せておいて、国家の決定に従うばかりだった保守的な日本社会でも、「有権者民主主義」への変化が少しずつ起きているようだ。
李鍾元/立教大教授・国際政治
誰が韓国のEメールを信じるのか
『ハンギョレ21』[2009.07.24第770号]
[特集]令状に「某のEメール全部」と書かれた根拠のない押収捜査、
意味のある規模で「サイバー亡命」が増える
▣イ・テヒ
「政府による実名制の導入や、行き過ぎたEメールの押収捜査のせいで、韓国のネチズンが国内ポータルのサービス利用を恐れるようになりました。誰も彼もがGoogleやYahooなどの外国系ポータルで「サイバー亡命」をしています。国内インターネット企業は死に、外国系企業の影響力ばかりが高まっています。これは逆差別なのではないですか?」
7月2日、ソウル鍾路区仁寺洞のある韓定食レストランで、チェ・シジュン放送通信委員会委員長とインターネット・ポータル企業の代表らが昼食を共にした席でのことだった。
»ソウル鍾路区仁寺洞のある韓定食レストランで会食したチェ・シジュン放送通信委員長(右側から2番目)とインターネット・ポータル企業の代表ら。この日、ポータルの代表らは「国内企業に対する逆差別」を集中的に取り上げたが、チェ・シジュン委員長はこれといった回答をしなかったそうだ。写真/聯合ニュース=ペク・スンリョル
外国系の影響力が高まるばかりの「逆差別」
ある参加者が、覚悟を決めて最近の状況についての不満を言った。チェ・シジョン委員長は、この発言に対してうんともすんとも言わなかったそうだ。この席にはキム・サンホンNHN代表、チェ・セフンDaum代表、チュ・ヒョンチョルSKコミュニケーションズ代表、キム・デソンYahooコリア代表、ソ・ジョンスKTH代表など、5つのポータルの最高経営者(CEO)と韓国インターネット企業協会のホ・ジンホ会長、韓国インターネット自律政策機構のキム・チャンヒ政策委員長が参加していた。
Daumの関係者は、「警察や検察が持ってくるEメールの押収捜査令状には、Eメールボックスの性格や期間が特定されている場合もあるが、ほとんどは「某のEメール全部」となっている。このような場合は受信ボックスと送信ボックスはもちろん、ゴミ箱にあるEメールもすべて渡さなければならない」と話した。たいていゴミ箱にあるEメールは1週間ほど保管されるが、本人が削除しなければずっと保管されつづけるメールサービスも多い。昨年のソウル市教育監候補に出馬したチュ・ギョンボク教授に対する選挙法違反捜査で、チュ教授の7年分のEメールが一度に押収捜査された理由は、このような根拠のない押収捜査の範囲のせいだった。
GoogleのGメールやマイクロソフトのHotmailなどの外国系Eメールにメインメールを変えることを「サイバー亡命」という。ジン・ジュングォン中央大学兼任教授のように、DaumにあったブログをGoogleの「ブログスポット(Blogger)」に移す人もいる。
サイバー亡命がまず最初に始まったのは、政界だった。2007年の大統領選挙で、熾烈な検証戦を繰り広げていた与野の国会議員や補佐官たちは、将来の「政治的報復」を念頭に置き、こっそりと内容のやり取りをするために外国系Eメールを使いはじめた。このような現象が一般人にまで広がったのは、Eメールの押収捜査の可能性に対する潜在的な恐怖が広がりはじめたせいだ。
Daumのイ・ビョンシン対外協力本部長は、「Googleのハングルページの全ページビューが増えるということはないが、ブログスポットなどの特化されたサービスでは意味のある変化があるという報告を受けた」、「このような趨勢が続くのならば、対策を立てざるをえない」と話した。Daumの他の関係者も「Daumの主力サービスであるhanmailでも、ページビューが落ちはじめたという警告が出ている」、「インターネットサービスの核心はセキュリティと安全なのに、国内インターネット企業のサービスの場合は、これに対する信頼性が崩れている」と憂慮した。
Naverのある関係者は、「政府や国内の著作権協会でも、GoogleやYouTubeに名誉毀損や著作権侵害の可能性が高い書き込みや掲示物がアップされていても、袖手傍観している」、「国境のないネットの世界で、ただ国籍によって法の適用基準が違うということは、ありえないこと」だと話した。
あるインターネットポータルの代表は、「GoogleとYouTubeが韓国の実名制法を拒否し、これを本社でも公式的に明らかにしたことがあるが、国内企業はこれを国内ネチズンを狙った一種のマーケティングだと見ている」、「Googleはプライバシーの保護を最優先しているが、中国では共産党の要求で検閲を受容している」と話した。彼は「Googleが『情報民主主義』という哲学的土台の下、個人のプライバシー保護のために政府と対峙していることは評価できることだが、国内ポータルとしては市場が崩壊しかねないという脅威を感じている」と語った。インターネットポータルの代表らがチェ・シジュン委員長に会ったとき、一斉に「逆差別論」を提起したのは、このような認識のためだ。
チェ・シジュン委員長、「ポータルは言論」
これに対してチェ・シジュン委員長は、「ポータルはメディアの役割を実質的に果たしており、力も持っている」、「ポータルが新しい時代を率いる産業であるなら、言論としての性格を公式的に明らかにする時期」だと言及したそうだ。チェ委員長はさらに「ポータルの言論機能に対する規制が今までは曖昧だったが、交通整理をすべき時期になった」とも発言した。彼がポータルの代表の前で「ポータルは言論」だと強調したのは、ポータルの規制をより強化するという意図が読み取れる。
大企業の経営権保護のために「ポイズン・ピル」(毒薬処方)のような強力な経営権防御装置を導入するなど、「ビジネス・フレンドリー」を全面に打ち立ててきた李明博政府が、ポータルに対しては「ノー・フレンドリー」であることを再び確認したわけだ。ポイズン・ピルは、敵対的買収・合併の試みに対抗して、既存の大株主が市場価格よりもはるかに安く新株を入手できるようにする条項だ。
あるポータルの役員は、「インターネットの命は自律性と開放性」だとし、「またインターネットは個人の創発性とプライバシーに対する絶対的な尊重を土台に成長した空間であるため、今はサイバー亡命に出るときではなく、韓国のインターネットを守らなければならないとき」だと話した。
政界と市民社会では、これに対する対策が集中的に論議されている。パク・ミョンソン民主党議員の発議で5月に改正された通信秘密保護法では、検事はEメールを押収捜査した後にEメールの所有者に30日以内にこれを伝えるようにした。ポータル業界では、押収捜査と同時にこれを伝えなければならないということで意見が一致している。あるポータル企業の法務チーム関係者は、「現行の刑事訴訟法では、オフラインで押収捜査が行われる際に、当事者が立ち会った状況で押収した物品や内容を確認するようになっている」、「一方、Eメールに対する押収捜査の場合、押収された内容はもちろん、押収事実自体もわからないというのは不当だ」と言った。この関係者は「Eメールの場合、内容の所有者ではなく、委託管理をしているだけのEメール業者が内容を渡す点も問題があると見ている」と話した。チュ・ギョンボク教授も4月、Eメールの押収捜査の手続きと方法に対する問題点を総合し、憲法訴願を出すと明らかにした。チュ教授は弁護士や市民団体と論議し、法理的補完を続けている状況だ。憲法訴願を出したものの、もし棄却されれば捜査機関にむしろ力を貸すことになってしまうからだ。
電話通話のように厳格に、改正案を準備中
民主党では、パク・ヨンソン議員がEメールの押収捜査令状の発布用件を拘束令状レベルに強化する刑事訴訟法改正案を準備している。現行の刑事訴訟法106条「必要なときには物件を押収することができる」を「犯罪を疑いえるだけの相当の理由がある場合に、押収することができる」に変え、「イーEメールの場合、期間を特定しなければならない」という状況を入れる計画だ。ハンナラ当のイ・ハクジェ議員は、通信秘密保護法の改正を準備している。現行の通信秘密保護法は、送受信が完了したEメールは「通信」ではなく、単純な「物件」として分類されている。イ議員は送受信が完了したEメールも、物件ではなく「電気通信」に含ませ、裁判所に押収捜査令状だけでなく、通信制限措置を求めて許可されなければならない方向に用件を強化するという考えだ。通信制限措置は「監聴」(裁判所の令状による盗聴)を意味する法律用語だ。Eメールの押収捜査も電話通話監聴のように厳格な制限を設ける方向で強化するということだ。
イ・テヒ記者
シングルマザーに「養育」の選択権はないのか
『ハンギョレ21』[2009.05.15第760号]
[表紙物語]養子縁組をまず勧める社会福祉機関…
低所得層のシングルマザーに月5万ウォン支援、養子縁組補助費10万ウォンよりも少ない
▣イム・ジソン
「生後1ヶ月になる子供をさしあげます」
ある入養機関に養子縁組を相談した際に目にした文言だ。この入養機関は、シングルマザーが出産したものの、届け出もされていない子供をすぐに引き渡せると言った。また他の入養機関でも戸籍のない「1~3ヶ月」になった子供を引き渡すと言った。国内での「秘密養子縁組」の現場だ。
» 昨年、シングルマザー1056人が自分の子供を国内養子に出した。海外養子に出した1114人を含めると、昨年、自分の子供を養子に出したシングルマザーは2170人だ。あるシングルマザー施設の風景。写真『ハンギョレ21』リュ・ウジョン記者
養育費よりも多い広報費、だが…
韓国で養子は「胸で生んだ愛」だ。4大入養機関を中心に、大々的な広報活動が行われている。2001年の韓国保健社会研究院による調査の結果、入養機関が国内養子1人に使う費用の28%が広報費だった。子供の養育費(23%)よりも多い金額だ。
おかげで国内養子に関する認識が急激に改善された。今や「国内養子」は1980年代から批判されてきた「海外養子」の代案になったのだ。有名芸能人も広報大使として積極的に参加した。多くの親が善意によって養子縁組を選択した。2007年からは、養子縁組の際に親が出していた手数料220万ウォンも、政府が代わりに入養機関に支給している。
しかし「生みの親と子供の別離」という基本構造と、シングルマザー問題まで、国内養子は海外養子の矛盾をそっくりそのまま抱え込んでいる。事後管理ができておらず、養子縁組が破綻した際の対策がないこともまったく同じだ。
去年、国内養子に出された子供は1306人だ。これらの保護者のうち、518人が都市勤労者の月平均所得以下の収入だった。1056人がシングルマザーが出産した子供で、920人が生後3ヶ月にもならずに養子に出された。この場合、ほとんど養親の戸籍にそのまま出生届が出される。実の親と養親の双方が養子の記録を残すことを望まないからだ。このため、韓国で養子がルーツを捜したり、実の親が子供を捜すことは容易ではない。
20年前、子供を海外養子に出したことに対する罪責感から、ファン某(50)さんは5年前に国内養子を引き取った。養子に出した子供を見つけられない気持ちを知っているからだった。子供を引き取ってから2年後、ファンさんは入養機関に「子供の両親に私の住所を知らせ、いつでも来てくれと伝えてください」と言った。入養機関の職員は飛び上がらんばかりに驚いた。「またつれて帰ると言ったらどうするんですか。そのままお互いに知らない方がいい」と言った。子供を奪われるという言葉に、ファンさんは胸が痛んだ。彼女は今まで子供の母親と連絡をしていない。
パク某(26)さんは子供を養子に出すことを選び、この1年間は泣き暮らした。2008年3月、シングルマザーとして子供を生まなければならなかった彼女は、入養機関が運営しているシングルマザー施設を通じて出産支援を受けた。相談士は最初のカウンセリングで、養子縁組のために同意書と親権放棄覚書を作成しなければならないと言った。出産日の朝にパクさんは書類に署名した。午後に生んだ娘は、入養機関の臨時保護所に送られた。
しかし出産後、子供の顔が頭から離れなった。4日後、パクさんは入養機関に「子供を直接育てたい」と要請した。しかし入養機関は「子供を連れ戻すには子供の父親との関係、養父母の立場などを明確にし、これまで支援した出産費用と子供の委託費用を支払わなければならない」と言った。結局、子供は生後2ヶ月にもならないうちに養父母の胸に抱かれた。
民法上の協議縁組解消、6年間で4896件
未練を捨て切れなかったパクさんは、子供の父親と共に子供を育てる方法を探しはじめた。去年11月、二人は婚姻届を出し、一緒に子供を探した。保健福祉家族部に申請し、インターネットの養子サークルに自分の事情を伝えた。3月、『ハンギョレ』で報道された直後、パクさん夫婦は子供を取り戻した。入養機関を通じて養親が「子供を連れ戻してもいい」と連絡をしてきたのだ。養子縁組を決めるのに1日もかからなかったが、縁組を解消するのには1年近くかかった。しかし、まだ終わったわけではない。書類上は子供は養親の実子となっている。子供を取り戻すには、「親生子不存在請求訴訟」を経なければならない。パクさん夫婦は現在、訴訟中だ。
この過程で養親も傷ついた。結局、1年近く育てた子供を奪われたからだ。十分なカウンセリングと熟慮期間を経ない養子縁組は、実親と養親双方に痛手を残すことになる。最高裁判所の統計によると、申告制の民法上の協議縁組解消は2001~2006年に4896件に達する。家裁の裁判を経なければならない裁判上縁組解消の事例は305件だ。
パクさんは「私が行った入養機関はただ養子縁組を話すばかりで、養育支援については実質的に説明しなかった」、「養育支援を受けることができるという内容を知っていれば、養育を選択しただろう」と話した。現在、低所得の母子家庭を一定期間保護し、生計をサポートして退所後の自立基盤を築けるように支援する母子保護施設が全国に41ヶ所ある。ここでは職業訓練を受けられ、退所の際に定着金として200万ウォンが支給される。低所得層のシングルマザーには1ヶ月に5万ウォンの養育費も支援される。しかし、これはすべての養子引取り先に1ヶ月に支給される10万ウォンの養育補助費にも満たない。
母親の悲しい目を見よ
専門家たちは、養子縁組をせずに子供を育てられるようにシングルマザーを支援すべきだと声をそろえている。エラン院のハン・サンスン院長は「(シングルマザーが子供を生むまで暮らせる)シングルマザー施設25ヶ所のうち、17ヶ所が入養機関により運営されており、養子縁組を選んだシングルマザーしか入所できない場合も多い」と指摘した。キム・ヘヨン韓国女性政策研究院研究委員は「シングルマザーが子供の養育をする場合、養子を引き取った養親よりも受け取る支援金が少ない理由はない」とし、「シングルマザーが養育を放棄しないように、経済・社会的自立能力の向上に焦点を当てて政策的な支援をするべき」だと話した。
養子縁組は基本的に家族の解体から始まる。子供が家族と故郷で暮らせるように支援することが、国際協約で明示している「基本」だ。アメリカに「国際養子のための財団」を設立しようとしていた元眼科医師のリチャード・ボアスは、2006年に韓国を訪れ、シングルマザー支援施設に立ち寄ってその考えを変えた。すでに子供を養子に出していたり、養子に出す準備をしているシングルマザーの悲しい目を見たからだ。彼は現在、国際養子支援事業をやめ、韓国に「シングルマザー支援ネットワーク」を作った。母親の悲しい目を見ることは、複雑な養子縁組問題を解決するための一歩になるだろう。
イム・ジソン記者