保守派の復讐
(『ハンギョレ21』 2008年08月25日 第725号)
政権-審査機関-保守言論が肩を組んで公安ドライブ-民主主義は破壊され、分裂は高まる
▣ イ・スンヒョク記者
▣シン・ユンドンウク記者
▣ イ・テヒ記者
すべての国民が北京から聞こえてくる金メダルの知らせに歓喜しているとき、国内ではこれからの政局の流れを予告するいくつかの事件が‘処理’された。 李明博大統領が8月11日、チョン・ヨンジュ前韓国放送社長を解任したことに続き、警察が8月15日に開かれた100回目のロウソク集会を前例のないほど強硬な鎮圧を行った。 検察はチョン前社長を強制拘引し、調査して不拘束起訴としたうえ、朝・中・東(朝鮮日報・中央日報・東亜日報)への広告拒否運動を主導したネチズン2人を拘束した。 検察は裁判所から令状を受け取り、参与政府(盧武鉉政府)時代に作成された青瓦台の記録物閲覧にも着手した。 今、‘失われた10年’を取り戻そうとしている‘保守の復讐’が、本格的に始まったのだろうか?
△(写真=ハンギョレ21/ユン・ウンシク記者)
青い染料がついていれば手当たり次第に連行
8月15日夜、100回目のロウソク集会の現場。 ソウル大学路にあるマロニエ公園でロウソク集会を終えてソウル市庁の方に移動していた市民たちは、進路が封鎖されたしまったために会峴洞にある国民銀行前の交差点に集まった。 警察は市民たちが集まりはじめるとすぐに解散警告放送を始めた。 「染料が付着した人は必ず検挙します」
夜7時47分に始まった解散放送は、検挙作戦の信号灯だった。 ソウル市庁と崇禮門(南大門)方面から3回にわたって警告が放送されたが、放送が終わるやいなや8時10分頃に崇禮門方面を皮切りに西側から青い染料が詰められた水が放たれはじめた。 7月に創設された警察官機動隊が、私服逮捕組として現場に投入された。 当時の状況を録画したある使用者制作コンテンツ(UCC)には、「みんな捕まえろ!」という叫び声と共に「あ~!」 という悲鳴が入り混じった現場記録がそっくりそのまま入っていた。 やがて警察官に首をつかまれ、手足を持ち上げられた市民が一人、二人と連行された。 女性中心の8・15平和行動団は路上で連座していたが、警察はこの団体に向かって水大砲を撃ち、泣きながら愛国歌を歌っている女性を連行した。 一瞬にして阿鼻叫喚の現場となった路上に、青色の染料が一面に広がった。
これと同じような状況が、鍾路のタプコル公園や明洞聖堂前などソウル市内のあちこちで起こった。 ロウソク集会と無関係な市民も被害を受けた。 この日の夜9時頃、明洞聖堂入り口付近のコンビニで休んでいたイム某(31)さんは、30~40m離れた場所で戦闘警察たちが誰かを連行する声を聞いたが、ただなんとなく座っていたところを連行されたケースだ。 イムさんは「戦闘警察の指揮官らしい人がこちら側に来ましたが、気にもとめませんでした。でも突然、戦闘警察たちが群がってきて取り囲まれました」と話した。 手も足も出ない状態で連行された彼は「一体どういうことなんですか」と抗議したが、無駄だった。 服に何滴か青い染料がついていたからだった。 彼はソウル松坡警察署で丸々30時間を過ごした後にようやく解放された。
高校1年生のチョン某(18)君は、連行された後で警察に染料入りの携帯用散水銃で撃たれたと主張した。 8月16日午前1時20分頃、鍾路2街で道路の向かい側のファーストフード店にいた友人に会いにいく途中だったチョン君は、突然戦闘警察数十人が押し寄せて来たので自分でもわからないうちに走っていたところを私服逮捕組に捕まり、首を完全に押さえつけられたそうだ。 彼は「戦闘警察たちが外から僕が見えないように取り囲み、携帯用水大砲を体に向けて撃ってきました」と話した。 彼もまた、警察署で2日過ごさなければならなかった。 高校生だと訴えても釈放されなかった。 われに返ってみると、服は破れ、首には傷があり、足にはあざができていた。 人権団体連席会の活動家、ミリュ氏は「明白な証拠操作であり、不法逮捕」だと指摘した。
人権侵害監視団や医療奉仕団も連行の対象となった。 フリーランスのジャーナリスト、チェ・ジョンミン氏はこの日連行されたときに全治2週間の負傷をした。 彼は「戦闘警察に盾で取り囲まれ、強制連行される過程で負傷した」と証言した。 民主労働党のカン・ギカプ議員も水大砲で撃たれ、連行される危機に直面したが、かろうじて免れた。 ロウソク集会現場でのせめてもの慰めは、法の前で平等が達成されたという点ぐらいだ。 国会議員、弁護士、医師なども例外なく警察の色素入り水大砲に撃たれ、平等に連行されたからだ。
この日、こうして警察に連行されたのは全部で156人。 これでロウソク集会に参加して連行された人は1458人に達した。 大検察庁の『犯罪白書』に出てくる集示法(集会および示威に関する法律)違反容疑の検挙者が△2007年1316人、△2006年1497人、△2005年1354人、△2004年1100人だった点を勘案すれば、どれだけ‘すばらしい’成果だったのか明確になる。 さらに連行者がロウソク集会の中盤を越えてから集中した点を勘案すれば、7~8月は‘連行の季節’と呼ばれるに値する。 その中でも青い染料が初めて使われた8月15日は‘血の光復節’、いや‘青い光復節’として記憶される日だった。 警察が連行された女性たちを収監し、下着を強制的に脱がせたことは、見方によればこの日起こった人権侵害の些細な一部分に過ぎなかった。
このように警察がロウソク集会に対する強硬鎮圧の度合いを高めている間、検察は反対側に立った人々を圧迫する捜査を着々と進めていた。 △チョン・ヨンジュ前韓国放送社長の背任容疑捜査、△『PD手帳』誤報騒動事件捜査、△朝・中・東(朝鮮・中央・東亜日報)広告拒否運動に関連したネチズン捜査△盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領記録物流出事件捜査などが代表的だ。
△行政府や国会、地方自治団体まですべて掌握した李明博政府が検察や警察、国税庁、監視院、放送通信委員会などの国家機関を前面に打ちたて、強圧的な統治を試みる理由は何だろうか? 6月23日、韓国放送本館前で「公営放送を守ろう」と1人デモを行い、保守団体の会員十数名から集団暴行されたパク某(50)さんと、建国節記念行事に反対するネチズンたちが8月15日に行ったパフォーマンス。(写真/左側からハンギョレのシン・ソヨン/キム・ボンギュ記者)
このように政権にとって目の上のこぶだったロウソクやネチズン、放送局などを手なずけるために査定機関が総動員されたが、この過程で注目を集めたのは、朝・中・東(朝鮮・中央・東亜日報)などの保守言論が大きな役割を果たしたという点だ。 ロウソクデモに参加した市民たちが朝・中・東に広告を載せた企業に対する不買運動を起こすと、『朝鮮日報』などは「ネチズンたちが、正当な経済活動を行っている新聞社と広告主の権利を踏みにじる明白な暴力行為によって業務を妨害している」として、広告主圧迫行為が中断されなければ民事・刑事責任を追及すると警告した。 その数日後には李明博大統領が「インターネットが毒になりかねない」(6月17日)と発言し、6月20日には検察が突然キム・ギョンハン法務長官の特別指示だとして電撃的に捜査に着手した。
このような流れを総合してみると、青瓦台と検察・警察に代表される査定機関、朝・中・東が三位一体になってお互いやり取りしながら雰囲気を醸成し、‘行動’に出た模様だ。
30%の進歩改革を切り捨てる
政権と査定機関、保守言論の共助を土台に強硬な公安ドライブが強化されたことに対して、ニューライトなどの保守層は歓呼している。 これらの相当数は、‘強硬ドライブ’という表現にも同意しない。 政府がもっと早くとるべきだった‘原則的な態度’を、遅ればせに着手しただけだと考えているからだ。 国民行動本部のソ・ジョンガプ本部長は、「ロウソク集会は金正日に追従する勢力が右派の李明博大統領を揺るがし、5年後に再び左派が政権を奪うための陰謀」だとし、「今は(李大統領が)厳正に法執行をすると言ったので、我々としてもかなり鼓舞している」と話した。 ニューライト建国連合のスポークスマン、ビョン・チョルファン氏も「元々しなければならなかったことを、ようやく今になってやっているだけではないか。 政府は発足初期に(ロウソク集会に対して)柔軟性を見せていたが、柔軟な対処が事態をより悪化させ、結局、原則通りにすることになった」と話した。
実際、李明博政府の強硬ドライブに同調するのは、有名な保守右翼ばかりではない。 平凡な国民の中にも、李大統領の強硬ドライブに対する支持を明らかにする人々が増えてきている。 世論調査機関であるリアルメーターの8月14日付の調査結果を見ると、李明博大統領の支持率は先週に比べて6.9%上昇し、30%を超えた。 設問に答えた人の支持政党によって、李大統領に対する支持にも大きな違いが見られる。 (進歩系の)民主労働党支持層と創造韓国党支持層の李大統領に対する支持率は、それぞれ8.0%pと14.9%p下落したが、(保守系の)親朴連帯支持層と自由先進党支持層の李大統領に対する支持率は30%pと16.4%p急騰した。 進歩・中道側の離脱はさらに深化する一方、保守層の結集効果により、李大統領の支持率が4ヶ月ぶりに30%台に上がった。 これは地域的には嶺南、政治的には汎与党支持層、宗教的には保守系キリスト教の色彩が強い人々が結集していることを間接的に示している。
8月15~17日の連休の際、慶尚北道浦項市の故郷に戻ったイ某(32)さんは、「‘大統領は仕事をしなければならないのに、市民が毎日ロウソクを灯してばかりで邪魔をしている。 大統領が間違っているわけではないのに、あんなになるなんて’と李大統領を気の毒に思うのが一般的な雰囲気だった」と語った。 彼はまた「8月15日に家族と一緒にテレビの前に座っていると、ロウソク集会の参加者100人余りが警察に連行されたというニュースが流れた。父が突然、‘国がこのありさまなのに、いつまでロウソクを手にしているのか’と、しきりに腹を立てた」と言い、「(父は)あの地域のお年寄りがほとんどそうであるように、日ごろからあのような(保守的な)考えをもって生きてきたのだから仕方がない」と付け加えた。
強硬ドライブを掲げている青瓦台や検察は、公式的に「厳正な法執行」を言明している。 これを支持する保守層も、‘法秩序の確立’を根拠にロウソクを非難し、政府の強硬対応を求めている。 しかし、保守層はこの過程で政権側が行っている不法あるいは偏法に関する論争に対しては努めて沈黙している。 チョン・ヨンジュ前韓国放送社長を強制的に退陣させた過程で、△監視院が無理やり監査結果を打ち出し、△18年ぶりに韓国放送に警察力が投入され、社員数百人が反対するなかで開かれた取締役会でチョン前社長の解任要求が議決され、△大統領に韓国放送社長解任権があるのかに関する論争が起きるなど、多くの手続き上の問題があるが、保守側はこのような問題に堅く口を閉じている。
一貫しない保守層のこのような態度は、進歩・改革陣営が保守層を信頼せず、対話が断絶している核心的理由だ。 映画会社‘ボム’のチョ・グァンヒ(弁護士)代表は、最近『チャンビ週刊論評』で「民主主義と法治主義という‘ゲームの規則’さえ遵守しているのならば、どんなに保守的な見解に対しても一緒に討論し、善意の競争ができなければならない。 しかし、自分たちが弱者で不利そうなときだけ民主主義の話をし、権力を手にしてからはそれを私有化する者たち、国民にだけ法の支配を受けろと言っておきながら、実際には力の支配が社会の冷酷な規則だと信じて実践する者たちとは同じ世界で生きていけない」と語った。 チョ代表は「彼らは国民のためという名目で自分の腹を満たし、公共の利益を語るふりをしながら自分たちの利益を追求する公共の敵であり、民主主義の破壊者だ」と指摘した。
自暴自棄か、政権反対闘争か
このような執権勢力の態度に対してイ・テクグァン慶煕大教授(英米文化)は、「福音主義新生活主義者、19世紀のアメリカのやりかた」だと評価した。 イ教授は「彼らは自分たちは質素に暮らしているので、他人の快楽は決して容認できない」、「李明博政府も不穏勢力は暴き出せばいいという衛生学的マインド」だと語った。 国防部の不穏書籍選定が極端な例だということだ
△ロウソク集会に対して「法による対応」を叫ぶ保守派は、政権が放送局の社長1人を退陣させるために国家機関を総動員している問題については沈黙を守っている。 ジョージ・ブッシュ米大統領の訪韓を歓迎し、8月5日午後にソウル市庁前広場で開催された「国への愛、韓国教会特別祈祷会」。 △(写真=ハンギョレ21/イ・ジョンチャン記者)
保守であれ、進歩であれ、両側の是々非々を明確に分けてその問題点を鋭く指摘し、‘ルール’を破れないようにする‘健全な中間層’が少ないということにより大きな問題意識を感じる人々もいる。 カン・ヒョンチョル淑明女子大教授(言論情報学部)は、「国家の一般的な属性を考えると、与党寄りの韓国放送取締役たちがチョン・ヨンジュ前社長を解任要請し、大統領が解任する一方で、検察がチョン前社長を拘束・取調べをすることはまったくありえないことではない」としながらも「ところが国家の明白な侵奪に少なくない公営放送関係者が沈黙したり、傍観・幇助している状況には、狼狽もするし、失望を超えて絶望を感じもする」と語った。
今や執権勢力は、30%の進歩・改革市民を‘非国民’とみなしているように見える。 ノ・ミョンウ亜洲大教授(社会学)は、「政権に反対する30%の進歩・改革勢力を切り捨て、保守派30%にプラスαを加えればいいという判断が確実に見える」、「ロウソク集会を放置していたら、30%の敵がプラスαであるはずの中道派国民の支持を得たために強硬ドライブを進んでいる」と分析した。 キム・ホギ延世大教授(社会学)は、「国民を分断する‘2つの国民戦略’」であり、「西欧ではそれでも5対5に分ける戦略だったが、韓国では1対9に分けて小数を優遇する戦略」だと指摘した。 また、「経済的両極化に加え、社会文化的統合支援さえも枯渇させる戦略」だと付け加えた。
こうして国民を政治的見解によって分断し、青い色素が付いた国民を‘不可触賎民’のように扱う韓国版カースト制度が登場した。 抵抗する30%には、独裁が抽象的なイデオロギーではないという現実を押し付けた。 そうすればするほど、市民社会団体や民主化運動陣営が、民主主義の後退を阻止するための運動に立ち上がることが明らかに見えてくる。 文民政府(金泳三政権)、国民の政府(金大中政権)、参与政府(盧武鉉政権)を経て発展してきた手続き的民主主義が明白に後退していると実感するからだ。 韓国放送の事態や『PD手帳』の捜査、TYN社長選任など、李明博政府の放送関連政策に対してパク・ミョンリム延世大教授(国際学大学院)は、「経済、言論、教育などの市民社会の領域が徐々に中央政府の影響力から脱して自律化していくのが大枠の趨勢だったが、現政府が昔の権威主義政権時代のように放送を一律的に編成しようとしていることが問題の本質」だと語った。
結局、李明博政府のこのような形態が強化されれば、相当数の国民は自暴自棄、または政権反対闘争という選択肢に追いやられ、この中で後者を選んだ者たちに対する弾圧と反発はより激しくなって社会的葛藤の拡大につながっていくしなかい状況だ。
李明博政府の一方主義に対する反発は、宗教界でも起こっている。 宗教差別に対する怒りが極に達した仏教界は8月27日、大規模な‘憲法破壊・宗教差別の李明博政府糾弾汎仏教徒大会’を開催する。 華渓寺の住職であるスギョン僧とムン・ギュヒョン神父は、李明博政府の形態を「国家的危機状況」と規定し、来月に五体投地(ごたいとうち)、三歩一拝(さんぽいっぱい)して国土を縦断する方案を計画中であることを明らかにした。
‘政治の日本化’が憂慮される
残念な点は政府の強硬ドライブと、それによる反発の中で葛藤と分裂がひどくなるほど、韓国社会全体の損害となってくるという点だ。 ノ・ミョンウ教授は「現在の悪循環が続けば、政権を掌握した保守と、それに反対する旗しか残らない。 そのような中で多数の人々は政治に疲れてしまうだろう。 その疲労感が構造化すると、国民の多数が公共のイシューに無関心な日本式社会になる。 その結果、投票に民心が反映されないシステムが定着する」と憂慮した。
そうして歴史の時計の針は逆に回り、過去が現在を意味することになる。
ナチスはまず共産党を粛清した
私は共産党ではなかったので沈黙した
その次はユダヤ人を粛清した
私はユダヤ人でなかったので沈黙した
その次は労働組合員を粛清した
私は組合員ではなかったので沈黙した
その次はカトリック教徒を粛清した
私はプロテスタントだったので沈黙した
その次は私のところに来た
そのときになると
私のために声をあげてくれる人はもう誰もいなかった
20世紀中盤のドイツの神学者、マルチン・ニーメラーのこのような告白が、21世紀の韓国には切実に聞こえる。