日本の保守メディアによる‘セカンド・レイプ’/高橋哲哉
今さらのように、私が嘆かずにいられないのは沖縄の米軍基地問題だ。先月11日、沖縄駐屯米軍の海兵隊員が女子中学生(14)を強姦した容疑で沖縄警察に逮捕された。面積は日本全体の0.4%に過ぎないが、在日米軍基地の75%が密集している沖縄では、米軍関係者による凶悪犯罪が頻発している。1995年には海兵隊員3人が女子小学生を集団でレイプした事件が起きたことから米軍基地撤退を求める抗議運動に発展し、日米安保体制を揺るがす事態にもなった。米軍はこの種の事件が起こるたびに‘軍紀徹底’、‘再発防止’を約束したが、95年の教訓を活かせないままその後も凶悪事件は絶えることがなかった。
今回の事件でさらに残念なことは、容疑者が犯行の一部を認めたものの、被害者が告訴を取り下げ、沖縄地検が不起訴処分としたことだ。強姦は刑事上‘親告罪’であるため、被害者が告訴をしなければ起訴することができない。なぜ被害者である少女は告訴を取り下げたのか?その理由としてまず推測できるのは、少女や家族の精神的苦痛だ。この事件後、週刊誌や一部の新聞などは被害者に落ち度があったかのように報道した。性暴力犯罪において、加害男性に全面的に過失があっても被害女性にも責任があるかのように言い、女性を追及することを‘セカンド・レイプ’と言う。被害女性の人権に無神経な日本メディアの報道姿勢のせいで被害者の声が圧殺されるのではないかと考えると、憤りを禁じえない。
さらに、日頃から批判的な意見や運動を‘反日的’と言って問題視し、‘愛国者’であるかのように振舞っていたメディアでさえ、このようなときには圧倒的強者である米軍の肩を持つのだから、あきれて言葉を失ってしまう。これは報道だけの問題ではない。昨年10月、広島市内で岩国基地所属の米海兵隊員4人が日本人女性(19)を集団レイプする事件が起こった。ところが日本の警察は基地内にいる容疑者に対して強制捜査を行わず、広島地検は結局11月に不起訴処分を下した。そしてこのとき、「未成年者が夜に盛り場でうろうろしているのも問題」だと逆に被害女性を咎める発言をしたのは、こともあろうに広島県知事だった。
90年代後半、日本の保守メディア・学会では、日本軍‘慰安所’制度の被害者だと名乗り出た韓国の女性たちに対する‘セカンド・レイプ’としか言いようのない‘集団バッシング’が猛威をふるった。「商行為として金を受け取ったくせに」だの「金が欲しくて被害をでっちあげているだけ」などと、聞くに堪えない言葉の暴力が被害者たちに大きな傷を負わせた。
この集団バッシングのせいで決して少なくはなかった日本人慰安婦被害者が名乗り出られなくなり、その声は封じ込まれてしまった。このような攻撃が性暴力被害者に沈黙を強要する、さらなる暴力だという認識を常識化する必要がある。
沖縄で発生した今回の事件に対して、アメリカと日本の両政府は比較的迅速に対応し、「このような事件を再び起こさないようにする」と‘約束’した。しかし、今までに何度も繰り返されてきた‘口約束’を信じる沖縄県民は、おそらくいないだろう。このような約束は、事態が‘基地撤収’、‘安保反対’に発展することを阻止するために蓋をかぶせようと必死になっているとしか見えないからだ。
前回このコラムに書いたように、沖縄を犠牲にして維持されてきた日米安保体制、市民の犠牲を意に介さないまま存在してきた在日米軍基地、それ自体を再び問いただす声を上げなければならないと思う。
高橋哲哉/東京大学教授・哲学
(ハンギョレ 2008年3月16日)