憲法改悪のための犯罪隠し/高橋哲哉
旧日本軍“慰安所”制度の被害女性たちがアメリカ議会で証言し、日本政府に謝罪などを求める決議案がアメリカ議会で審議されている。安倍晋三首相は「強制性はなかった」という自らの発言に非難が集まると態度を変え、“謝罪”を繰り返している。しかし慰安婦問題に関して旧日本軍の責任を否定することは、安倍の昔からの持論であり、彼がこれを変えたと考えることはできない。
今年の3月末、文部科学省は2008年度から使う高校教科書の検定結果を発表した。歴史教科書のほとんどが日本軍慰安婦問題を記述したが、今回は文部科学省の検定意見が付かなかった。その理由は、どの教科書も日本軍の関与事実をまったく扱わなかったためだった。教科書会社側が検定で問題化することを憂慮し、記述を自制したのだ。結果的に軍の責任を認めなくない安倍首相などの意を汲んだ格好になった。
今回の検定でより大きな問題は、沖縄戦の“集団自決”に関する修正だった。日本軍は太平洋戦争末期、沖縄を“本土防衛”のための“捨て石”とし、この過程で自国民である沖縄住民がスパイとして疑われ、虐殺されるなどの被害に遭った。(強要された)集団自殺もその一つだ。沖縄住民が捕虜になれば機密が漏れてしまうことを憂慮した日本軍は、米軍に対する恐怖心で住民を洗脳した後、手榴弾を分け与え、(極限状態に)追い詰められたら自ら命を絶つように指示した。その結果、両親や子供、兄弟など肉親同士で殺し合い、集団で自殺するという悲惨な事件が沖縄の各地域で起こった。
今回の検定で合格した教科書の集団自決と慰安婦に関する記述に共通しているのは、日本軍の関与事実が削除されたという点だ。日本政府はこの2つの悲劇の主犯が日本軍だという事実を、高校生に教えたくなかったということなのだろう。日本軍の強要を言及しないまま集団自決としてだけ教えれば、“自決”という言葉の語感のために、住民が国家のために自ら死を選択したという殉国美談が成立してしまう。日本軍が死に追いやった沖縄住民が、むしろ“靖国の精神”を発揮して天皇と日本国家のために命を捨て、最期まで忠実だったことになってしまうのだ。
1990年代に日本軍慰安婦問題に関する記述を教科書から削除しようという運動を展開したのは、自由主義史観研究会や“あたらしい歴史教科書をつくる会”の人々だった。集団自決に関する検定の背後にも、同じ人々の存在が伺われる。自由主義史観研究会は機関誌『歴史と教育』の2005年4月号から6月号にかけて、日本人を“自虐史観”から脱皮させる運動の一環として“沖縄プロジェクト”を成功させようと訴えた。これに従い、“集団自決”が軍の命令によるものだったという記録は、当時日本軍守備隊長に対する名誉毀損だと訴訟まで起こされた。文部科学省の教科書検定という政府の行為が自由主義史観研究会の動きと連動しているのは、決して偶然ではない。今の日本の内閣総理大臣は、彼らと同じ歴史観を持っている政治家だからである。
ならばなぜ彼らは日本軍慰安婦と沖縄の集団自決から軍の関与事実を消そうとするのか?日本の憲法第9条を改正して自衛隊を自衛軍という名前の日本軍に変え、アメリカと一体化して武力行使が可能になるようにするためだ。過去に日本軍が犯罪を行ったとなっては格好がつかない。沖縄戦のように自国民にも死を強要したとなっては、さらに情勢が悪くなる。軍の犯罪を歴史から削除しようとする教科書検定の動向は、憲法改悪の動きと一体だとしか考えられない。
高橋哲哉/東京大学教授・哲学
(ハンギョレ 2007年5月20日)
すみませんすみませんすみません。ここのところマジで死にそうに忙しいのでブログも放置プレイ状態。コメントやトラックバックを返せなくて申し訳ありません。来月になったら、少しは・・・時間が・・・で・・・き・・・るのか?
今の気分はとりあえず
こんな感じです。