■ 前回のあらすじ ■
南フランス出身のアルフォンス君(1840~97)は、田舎者である自分の出自にコンプレックスを抱きながらも、フランス語が「世界中で一番美しい、一番はっきりとした、一番力強い言葉」などと何様?的な小説を書いて一躍ベストセラー作家になった。そしてその小説に「感動したっ!」日本人によって、“自分たちの言葉を奪われるカワイソーな小説”として読みつがれた。ある日、アルフォンス君は地球温暖化の影響で、21世紀の日本に漂着した。そこでは“我が国と郷土を愛するホニャララな態度”を教えない教師は去らなければならないらしい。「これはジャポンのエスプリかい?俺みたいなパリから来たシティ・ボーイにとって“我が国”ってどこなんだい?」というツッコミのかいなく、ハムニダ先生の最後の授業となった。
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「じゃあ、全員そろったところで“我が国と郷土を愛するホニャララな態度”について考えてみよう。“郷土”っていうのは自分の生まれ育った土地や故郷のことなんだが、“我が国”っていったいどこのことなんだろうな?
関係ないかもしれないが、いま先生はザミャーチンの『
われら』っつー未来小説を読んでいるんだ。この小説の中では、世界が
単一国によって支配され、人々は
員数(ナンバー)として
恩人に管理されているんだ。その世界では選挙の投票日は
満場一致デーと呼ばれ、員数(ナンバー)が満場一致で恩人に対して賛成を示すことが当然とされている。この小説の中には、こんなシビれる個所があるんだ。
飛行機の速度=0
なら、飛行機は動かない。
人間の自由=0
なら、人間は罪を犯さない。 (p.54)
要するに、この世界から犯罪がなくすために人間から自由を奪ったという論理だ。どうだ、すごい世界だろう。
そういえば、先生は聞いたことないが、自民党党歌の題名は『われら』らしい。さっき自民党のHPで確認しようと思ったんだけど、ニヤけた中年男と老人の顔がキモかったので挫折してしまっ…と、思ったら、みつけちゃったじゃないか。
ここで聞けるぞ。先生、歌詞見た時点でコワくなって聞いてないけどな。「一人の幸福 皆の幸福 」だそうだ。
独裁者が一人しあわせなら、国民全体がしあわせってことなのかな。自民党は小説『われら』みたいな世界を夢見ているみたいだな。
創価カルトの公明党は言わずもがな。
そういえば、さっき遅れて入ってきたアルフォンスはフランス人だったな。ん?お前の時代は国籍や国境の概念がまだ曖昧だったし、パスポートやビザも確立してなかったって?うん、まぁそりゃそうだわな。日本で“国家”だの“国民”だのの訳語ができたのもこの時期だからなぁ。あと、このクラスにはじいちゃん、ばあちゃんくらいの世代が外国に移住して、また家族で日本にもどってきた子もいるな。国籍は日本だったり、住んでいた外国だったりだ。逆に、じいちゃん、ばあちゃんくらいの世代のときは日本だったけど、第二次世界大戦後に日本じゃなくなった国や地域出身の子もいるよな。あと、とうちゃん、かあちゃんのどっちかが日本人じゃなかったりとか。この子たちも国籍が外国だったり、日本だったり、二つあったりだ。
まぁ、みんないろんな経緯でたまたま日本で生まれたり日本に来ることになって、たまたま日本語をしゃべる生活圏に住んでいるってことだ。で、たまたまみんなは日本語を(で)勉強している。日本語は美しい言語だけど、別に世界で一番美しいってわけじゃないぞ。英語は便利だけど、それも世界で一番ってわけじゃない。一番美しい言語はこれだ!と言い切れるものはこの世界にはないけど、世界中に美しい言葉はいっぱいある。それを探していけばいいわけだ。
いろんな国の言葉を覚えれば、それだけいろんな国の人たちと話し合えるし、分かり合えるんだ。「ある民族が奴隷となっても、その国語を保っている限り、その牢獄の鍵を握っているようなものだ」っていうのはまやかしだ。国語を守るのも大事だが、ほかの国やほかの立場にいる人のことを理解することも大事なんだ。それを忘れないでくれ…」
突如、時計が12時を打った。「強制はのぞましくない」とやんごとなきお方が言ったはずの『君が代』が窓の外で響く。先生はついには感極まって絶句し、黒板に大きな字で力強く書き始めた。
ぼくたち地球人。(Byドラえもん)
大きなうちゅうの 小さな星に えがおがいっぱい 夢のくに 手と手をつないで つくろうよ~♪
そして先生は振り返らずに手で言う「もうおしまいだ・・・お帰り」。
* 参考 *
アルフォンス・ドーデ『最後の授業』の問題域
「新教育基本法案」へのツッコミ本番。