誰が韓国のEメールを信じるのか
『ハンギョレ21』[2009.07.24第770号]
[特集]令状に「某のEメール全部」と書かれた根拠のない押収捜査、
意味のある規模で「サイバー亡命」が増える
▣イ・テヒ
「政府による実名制の導入や、行き過ぎたEメールの押収捜査のせいで、韓国のネチズンが国内ポータルのサービス利用を恐れるようになりました。誰も彼もがGoogleやYahooなどの外国系ポータルで「サイバー亡命」をしています。国内インターネット企業は死に、外国系企業の影響力ばかりが高まっています。これは逆差別なのではないですか?」
7月2日、ソウル鍾路区仁寺洞のある韓定食レストランで、チェ・シジュン放送通信委員会委員長とインターネット・ポータル企業の代表らが昼食を共にした席でのことだった。
»ソウル鍾路区仁寺洞のある韓定食レストランで会食したチェ・シジュン放送通信委員長(右側から2番目)とインターネット・ポータル企業の代表ら。この日、ポータルの代表らは「国内企業に対する逆差別」を集中的に取り上げたが、チェ・シジュン委員長はこれといった回答をしなかったそうだ。写真/聯合ニュース=ペク・スンリョル
外国系の影響力が高まるばかりの「逆差別」
ある参加者が、覚悟を決めて最近の状況についての不満を言った。チェ・シジョン委員長は、この発言に対してうんともすんとも言わなかったそうだ。この席にはキム・サンホンNHN代表、チェ・セフンDaum代表、チュ・ヒョンチョルSKコミュニケーションズ代表、キム・デソンYahooコリア代表、ソ・ジョンスKTH代表など、5つのポータルの最高経営者(CEO)と韓国インターネット企業協会のホ・ジンホ会長、韓国インターネット自律政策機構のキム・チャンヒ政策委員長が参加していた。
Daumの関係者は、「警察や検察が持ってくるEメールの押収捜査令状には、Eメールボックスの性格や期間が特定されている場合もあるが、ほとんどは「某のEメール全部」となっている。このような場合は受信ボックスと送信ボックスはもちろん、ゴミ箱にあるEメールもすべて渡さなければならない」と話した。たいていゴミ箱にあるEメールは1週間ほど保管されるが、本人が削除しなければずっと保管されつづけるメールサービスも多い。昨年のソウル市教育監候補に出馬したチュ・ギョンボク教授に対する選挙法違反捜査で、チュ教授の7年分のEメールが一度に押収捜査された理由は、このような根拠のない押収捜査の範囲のせいだった。
GoogleのGメールやマイクロソフトのHotmailなどの外国系Eメールにメインメールを変えることを「サイバー亡命」という。ジン・ジュングォン中央大学兼任教授のように、DaumにあったブログをGoogleの「ブログスポット(Blogger)」に移す人もいる。
サイバー亡命がまず最初に始まったのは、政界だった。2007年の大統領選挙で、熾烈な検証戦を繰り広げていた与野の国会議員や補佐官たちは、将来の「政治的報復」を念頭に置き、こっそりと内容のやり取りをするために外国系Eメールを使いはじめた。このような現象が一般人にまで広がったのは、Eメールの押収捜査の可能性に対する潜在的な恐怖が広がりはじめたせいだ。
Daumのイ・ビョンシン対外協力本部長は、「Googleのハングルページの全ページビューが増えるということはないが、ブログスポットなどの特化されたサービスでは意味のある変化があるという報告を受けた」、「このような趨勢が続くのならば、対策を立てざるをえない」と話した。Daumの他の関係者も「Daumの主力サービスであるhanmailでも、ページビューが落ちはじめたという警告が出ている」、「インターネットサービスの核心はセキュリティと安全なのに、国内インターネット企業のサービスの場合は、これに対する信頼性が崩れている」と憂慮した。
Naverのある関係者は、「政府や国内の著作権協会でも、GoogleやYouTubeに名誉毀損や著作権侵害の可能性が高い書き込みや掲示物がアップされていても、袖手傍観している」、「国境のないネットの世界で、ただ国籍によって法の適用基準が違うということは、ありえないこと」だと話した。
あるインターネットポータルの代表は、「GoogleとYouTubeが韓国の実名制法を拒否し、これを本社でも公式的に明らかにしたことがあるが、国内企業はこれを国内ネチズンを狙った一種のマーケティングだと見ている」、「Googleはプライバシーの保護を最優先しているが、中国では共産党の要求で検閲を受容している」と話した。彼は「Googleが『情報民主主義』という哲学的土台の下、個人のプライバシー保護のために政府と対峙していることは評価できることだが、国内ポータルとしては市場が崩壊しかねないという脅威を感じている」と語った。インターネットポータルの代表らがチェ・シジュン委員長に会ったとき、一斉に「逆差別論」を提起したのは、このような認識のためだ。
チェ・シジュン委員長、「ポータルは言論」
これに対してチェ・シジュン委員長は、「ポータルはメディアの役割を実質的に果たしており、力も持っている」、「ポータルが新しい時代を率いる産業であるなら、言論としての性格を公式的に明らかにする時期」だと言及したそうだ。チェ委員長はさらに「ポータルの言論機能に対する規制が今までは曖昧だったが、交通整理をすべき時期になった」とも発言した。彼がポータルの代表の前で「ポータルは言論」だと強調したのは、ポータルの規制をより強化するという意図が読み取れる。
大企業の経営権保護のために「ポイズン・ピル」(毒薬処方)のような強力な経営権防御装置を導入するなど、「ビジネス・フレンドリー」を全面に打ち立ててきた李明博政府が、ポータルに対しては「ノー・フレンドリー」であることを再び確認したわけだ。ポイズン・ピルは、敵対的買収・合併の試みに対抗して、既存の大株主が市場価格よりもはるかに安く新株を入手できるようにする条項だ。
あるポータルの役員は、「インターネットの命は自律性と開放性」だとし、「またインターネットは個人の創発性とプライバシーに対する絶対的な尊重を土台に成長した空間であるため、今はサイバー亡命に出るときではなく、韓国のインターネットを守らなければならないとき」だと話した。
政界と市民社会では、これに対する対策が集中的に論議されている。パク・ミョンソン民主党議員の発議で5月に改正された通信秘密保護法では、検事はEメールを押収捜査した後にEメールの所有者に30日以内にこれを伝えるようにした。ポータル業界では、押収捜査と同時にこれを伝えなければならないということで意見が一致している。あるポータル企業の法務チーム関係者は、「現行の刑事訴訟法では、オフラインで押収捜査が行われる際に、当事者が立ち会った状況で押収した物品や内容を確認するようになっている」、「一方、Eメールに対する押収捜査の場合、押収された内容はもちろん、押収事実自体もわからないというのは不当だ」と言った。この関係者は「Eメールの場合、内容の所有者ではなく、委託管理をしているだけのEメール業者が内容を渡す点も問題があると見ている」と話した。チュ・ギョンボク教授も4月、Eメールの押収捜査の手続きと方法に対する問題点を総合し、憲法訴願を出すと明らかにした。チュ教授は弁護士や市民団体と論議し、法理的補完を続けている状況だ。憲法訴願を出したものの、もし棄却されれば捜査機関にむしろ力を貸すことになってしまうからだ。
電話通話のように厳格に、改正案を準備中
民主党では、パク・ヨンソン議員がEメールの押収捜査令状の発布用件を拘束令状レベルに強化する刑事訴訟法改正案を準備している。現行の刑事訴訟法106条「必要なときには物件を押収することができる」を「犯罪を疑いえるだけの相当の理由がある場合に、押収することができる」に変え、「イーEメールの場合、期間を特定しなければならない」という状況を入れる計画だ。ハンナラ当のイ・ハクジェ議員は、通信秘密保護法の改正を準備している。現行の通信秘密保護法は、送受信が完了したEメールは「通信」ではなく、単純な「物件」として分類されている。イ議員は送受信が完了したEメールも、物件ではなく「電気通信」に含ませ、裁判所に押収捜査令状だけでなく、通信制限措置を求めて許可されなければならない方向に用件を強化するという考えだ。通信制限措置は「監聴」(裁判所の令状による盗聴)を意味する法律用語だ。Eメールの押収捜査も電話通話監聴のように厳格な制限を設ける方向で強化するということだ。
イ・テヒ記者