シングルマザーに「養育」の選択権はないのか
『ハンギョレ21』[2009.05.15第760号]
[表紙物語]養子縁組をまず勧める社会福祉機関…
低所得層のシングルマザーに月5万ウォン支援、養子縁組補助費10万ウォンよりも少ない
▣イム・ジソン
「生後1ヶ月になる子供をさしあげます」
ある入養機関に養子縁組を相談した際に目にした文言だ。この入養機関は、シングルマザーが出産したものの、届け出もされていない子供をすぐに引き渡せると言った。また他の入養機関でも戸籍のない「1~3ヶ月」になった子供を引き渡すと言った。国内での「秘密養子縁組」の現場だ。
» 昨年、シングルマザー1056人が自分の子供を国内養子に出した。海外養子に出した1114人を含めると、昨年、自分の子供を養子に出したシングルマザーは2170人だ。あるシングルマザー施設の風景。写真『ハンギョレ21』リュ・ウジョン記者
養育費よりも多い広報費、だが…
韓国で養子は「胸で生んだ愛」だ。4大入養機関を中心に、大々的な広報活動が行われている。2001年の韓国保健社会研究院による調査の結果、入養機関が国内養子1人に使う費用の28%が広報費だった。子供の養育費(23%)よりも多い金額だ。
おかげで国内養子に関する認識が急激に改善された。今や「国内養子」は1980年代から批判されてきた「海外養子」の代案になったのだ。有名芸能人も広報大使として積極的に参加した。多くの親が善意によって養子縁組を選択した。2007年からは、養子縁組の際に親が出していた手数料220万ウォンも、政府が代わりに入養機関に支給している。
しかし「生みの親と子供の別離」という基本構造と、シングルマザー問題まで、国内養子は海外養子の矛盾をそっくりそのまま抱え込んでいる。事後管理ができておらず、養子縁組が破綻した際の対策がないこともまったく同じだ。
去年、国内養子に出された子供は1306人だ。これらの保護者のうち、518人が都市勤労者の月平均所得以下の収入だった。1056人がシングルマザーが出産した子供で、920人が生後3ヶ月にもならずに養子に出された。この場合、ほとんど養親の戸籍にそのまま出生届が出される。実の親と養親の双方が養子の記録を残すことを望まないからだ。このため、韓国で養子がルーツを捜したり、実の親が子供を捜すことは容易ではない。
20年前、子供を海外養子に出したことに対する罪責感から、ファン某(50)さんは5年前に国内養子を引き取った。養子に出した子供を見つけられない気持ちを知っているからだった。子供を引き取ってから2年後、ファンさんは入養機関に「子供の両親に私の住所を知らせ、いつでも来てくれと伝えてください」と言った。入養機関の職員は飛び上がらんばかりに驚いた。「またつれて帰ると言ったらどうするんですか。そのままお互いに知らない方がいい」と言った。子供を奪われるという言葉に、ファンさんは胸が痛んだ。彼女は今まで子供の母親と連絡をしていない。
パク某(26)さんは子供を養子に出すことを選び、この1年間は泣き暮らした。2008年3月、シングルマザーとして子供を生まなければならなかった彼女は、入養機関が運営しているシングルマザー施設を通じて出産支援を受けた。相談士は最初のカウンセリングで、養子縁組のために同意書と親権放棄覚書を作成しなければならないと言った。出産日の朝にパクさんは書類に署名した。午後に生んだ娘は、入養機関の臨時保護所に送られた。
しかし出産後、子供の顔が頭から離れなった。4日後、パクさんは入養機関に「子供を直接育てたい」と要請した。しかし入養機関は「子供を連れ戻すには子供の父親との関係、養父母の立場などを明確にし、これまで支援した出産費用と子供の委託費用を支払わなければならない」と言った。結局、子供は生後2ヶ月にもならないうちに養父母の胸に抱かれた。
民法上の協議縁組解消、6年間で4896件
未練を捨て切れなかったパクさんは、子供の父親と共に子供を育てる方法を探しはじめた。去年11月、二人は婚姻届を出し、一緒に子供を探した。保健福祉家族部に申請し、インターネットの養子サークルに自分の事情を伝えた。3月、『ハンギョレ』で報道された直後、パクさん夫婦は子供を取り戻した。入養機関を通じて養親が「子供を連れ戻してもいい」と連絡をしてきたのだ。養子縁組を決めるのに1日もかからなかったが、縁組を解消するのには1年近くかかった。しかし、まだ終わったわけではない。書類上は子供は養親の実子となっている。子供を取り戻すには、「親生子不存在請求訴訟」を経なければならない。パクさん夫婦は現在、訴訟中だ。
この過程で養親も傷ついた。結局、1年近く育てた子供を奪われたからだ。十分なカウンセリングと熟慮期間を経ない養子縁組は、実親と養親双方に痛手を残すことになる。最高裁判所の統計によると、申告制の民法上の協議縁組解消は2001~2006年に4896件に達する。家裁の裁判を経なければならない裁判上縁組解消の事例は305件だ。
パクさんは「私が行った入養機関はただ養子縁組を話すばかりで、養育支援については実質的に説明しなかった」、「養育支援を受けることができるという内容を知っていれば、養育を選択しただろう」と話した。現在、低所得の母子家庭を一定期間保護し、生計をサポートして退所後の自立基盤を築けるように支援する母子保護施設が全国に41ヶ所ある。ここでは職業訓練を受けられ、退所の際に定着金として200万ウォンが支給される。低所得層のシングルマザーには1ヶ月に5万ウォンの養育費も支援される。しかし、これはすべての養子引取り先に1ヶ月に支給される10万ウォンの養育補助費にも満たない。
母親の悲しい目を見よ
専門家たちは、養子縁組をせずに子供を育てられるようにシングルマザーを支援すべきだと声をそろえている。エラン院のハン・サンスン院長は「(シングルマザーが子供を生むまで暮らせる)シングルマザー施設25ヶ所のうち、17ヶ所が入養機関により運営されており、養子縁組を選んだシングルマザーしか入所できない場合も多い」と指摘した。キム・ヘヨン韓国女性政策研究院研究委員は「シングルマザーが子供の養育をする場合、養子を引き取った養親よりも受け取る支援金が少ない理由はない」とし、「シングルマザーが養育を放棄しないように、経済・社会的自立能力の向上に焦点を当てて政策的な支援をするべき」だと話した。
養子縁組は基本的に家族の解体から始まる。子供が家族と故郷で暮らせるように支援することが、国際協約で明示している「基本」だ。アメリカに「国際養子のための財団」を設立しようとしていた元眼科医師のリチャード・ボアスは、2006年に韓国を訪れ、シングルマザー支援施設に立ち寄ってその考えを変えた。すでに子供を養子に出していたり、養子に出す準備をしているシングルマザーの悲しい目を見たからだ。彼は現在、国際養子支援事業をやめ、韓国に「シングルマザー支援ネットワーク」を作った。母親の悲しい目を見ることは、複雑な養子縁組問題を解決するための一歩になるだろう。
イム・ジソン記者