私の9ヶ月間の記録をあさる「ゴキブリ」
『ハンギョレ21』[2009.07.13第768号]
[イシュー追跡]Eメールの押収捜査をされたYTN*の記者による寄稿
「勝手に見開いて公開しても構わないと考える、その残忍さと軽薄さに憤り」
#シーン1
ソウル中央地検のチョン・ビョンドゥ1次席検事が文化放送の『PD手帳』
**に対する捜査結果を発表しましたが、実際には捜査結果はすでに少しずつ伝わっていたため、その内容は気の抜けたビールのようでした。この日のハイライトは、『PD手帳』制作陣のEメールの公開でした。チョン次席検事は作家のEメールをはばかることなく公開しました。「『PD手帳』に対する捜査結果」の発表ではなく、「『PD手帳』制作陣のEメールの内容」暴露の場になってしまったのです。検察は、制作陣が顕著に公平性をなくしたことが正しいのかを国民が判断するうえで重要な根拠資料になると考えたそうです。『PD手帳』制作陣の思想や良心を、国民が審判しろということのようです。
»3月22日、全国言論労組YTN支部の労組員たちがノ・ジョンミョン労組委員長など組合員4人の逮捕に抗議し、ゼネスト出征式と決起集会を開いている。写真『ハンギョレ21』チョン・ヨンイル記者
『PD手帳』に対する捜査なのか、制作陣のEメール捜査なのか
法廷で証拠能力を認められるかどうかもわからない内容を、捜査結果の発表の場で公開したことは、理解できないことでした。1年後に捜査結果を出しておきながら、世論に訴えなければならないほど急を要することなのかという哀れみさえ感じました。公開の是非について内部的に苦悩もしたそうです。当然でしょう。私生活の侵害論争はもちろん、通信秘密保護法に違反しないかを調べておくべきことですから。大韓民国の検察が、捜査結果を発表する席で、実定法に違反するなんてことがあってはならないことですから。
しかしもっと根本的な問題は、検察で陳述した内容でもない個人のEメールを、捜査機関が思うがままに見開いたうえ、これを勝手に公開してもいいと考えた残忍さと軽薄さです。Eメールの押収捜査という簡単な方法で被疑者の精神世界をやたらに解体し、都合のいい部分だけをマスコミに公開するなんて…。私にもそのような状況が起こりえたので、胸がぎゅっと締め付けられました。
#シーン2
私は今年の2月からソウル中央地検に出入りしています。毎日ここに出勤し、記事を書いています。ところが6月に、私のEメールを検察がのぞき見たという噂を聞いたのです。調べてみると、検察ではありませんでした。警察でした。警察が押収令状を申請し、検察はその必要性があると判断して裁判所に請求しただけだそうです。参考までに、私は(YTN天下り社長反対闘争の過程で)先輩や後輩20人と共に業務妨害容疑で会社から告訴されたことがあります。ともかく、私の問題は5月に終結しました。そして1ヵ月後にEメールを捜査機関が調べたという事実を知ったのです。
噂では聞いていたEメールの押収捜査。私も知らない間に誰かが私のEメールを探っていったのです。「なぜ?いつ?どんな内容を…?」それを調べる術もありませんでした。ゴキブリ1匹が私の頭の中を掻き回しているような感覚というか…。警察が調べた私のEメールは去年の7月から今年の3月まで、9ヶ月間にも及びます。
記事の原稿も押収捜査されるのではと憂慮
彼らは私の人生の9ヶ月間をまるで録画された閉鎖回路テレビ(CCTV)画面を再生するかのように覗き見たに違いありません。いったいどんな内容を興味深く見たのでしょうか?おもしろい内容があったのでしょうか?警察は私のEメールのどんな部分を見たかったのでしょうか?誰かが密かに指令を受けたという証拠をつかむためだったのでしょうか?私がどんな思想を持っているのか知りたかったのでしょうか?それとも特に関心はなくても、ひょっとすると何かひっかかるかもしれないからと、私の人生の9ヶ月間の記録をまとめて押収したのでしょうか?特に捜査に必要なものでないのに、あまりにも簡単にYTNの記者たちの行動や思想を追跡できるため、Eメールを押収したのではないでしょうか?万が一のためにとりあえずやったのではないか、ということです。私の考えや、私の私生活、私の取材情報、私のスケジュールのことです。
捜査機関に聞きたいものです。大韓民国の国民の人権をこんなに簡単に無視したのには、しかるべき理由があったのでしょう。それは何なのですか?それでも、ある人のようにEメールの内容がマスコミに公開されたわけではない
***ので、幸いだったと思うべきなのでしょうか?検察や警察が当然のように被疑者のEメールをマスコミに公開する人権損失の時代が、もうすぐ来るかもしれませんから。今日、私のEメールから送られるこの原稿も、いつか押収捜査の対象になるなるのではないかと憂慮します。
シンホYTN社会部記者
*YTN 韓国の24時間リアルタイムニュース専門放送局。
**『PD手帳』 1990年5月に放送を開始した文化放送の時事告発番組。2008年に『PD手帳』は米国産牛肉輸入交渉の問題点を指摘し、狂牛病の危険性を伝える報道を何度か行った。特に4月29日の報道は、米韓牛肉交渉に対する反対デモの起爆剤となった。それ以降、一部の内容を誤訳した事実が確認され、これをめぐって相反する反応が出てきた。大韓民国政府、与党や保守性向の新聞(朝鮮、中央、東亜など)は、狂牛病の危険性が誇張・歪曲されたと主張し、野党や進歩性向の新聞(ハンギョレ、京郷、オーマイニュースなど)は些細なミスがあっただけで、政府が交渉を誤ったという本質は変わらなかったと主張した。
***2009年6月19日、検察は『PD手帳』の捜査に関連し、事件の内容とまったく関係のない作家のEメールを公開し、人権侵害論争を巻き起こした。