検察の標的捜査は現在も進行中
『ハンギョレ21』[2009.06.12第764号]
[表紙物語]盧武鉉前大統領の葬儀直後、ユン・ウォンチョル前青瓦台行政官を拘束…
「イ・チョルサン・ゲート」を一網打尽にできず、広範囲な口座追跡
▣チェ・ソンジン
6月1日、大田地検特捜部が参与政府(盧武鉉政権)時代に青瓦台に勤務していたユン・ウォンチョル前行政官を拘束した。盧武鉉前大統領の告別式の直後だった。2007年9月、チャンシン繊維のカン・グムウォン会長から8000万ウォンを受け取り、それをアン・ヒジョン民主党最高委員に渡した容疑だ。ユン前行政官は、国会議員の補佐官として在職していた2005年頃にも知人から学校施設の改善などに関する請託と共に、数度にわたって1億ウォン前後を受け取った容疑もある。それぞれ政治資金法違反と斡旋収賄容疑だった。
令状を発布した裁判所は、斡旋収賄容疑に注目した。「斡旋収賄の回数が複数あり、証拠隠滅および逃走の恐れがある」というのが令状を出した裁判所の説明だった。ユン前行政官側も、「検察はアン・ヒジョン最高委員がカン・グムウォン会長からお金を借りた部分(政治資金法違反容疑)を問題視しているが、この部分だけでは令状が棄却される可能性が高い」と語った。
»保釈されたカン・グムウォン会長(左)が5月26日、ボンハ村にある盧武鉉前大統領の安置所を訪れ、アン・ヒジョン民主党最高委員に挨拶をしている。写真共同取材団
アン・ヒジョン、カン・グムウォンを狙い、始まった捜査
ユン・ウォンチョル前行政官の名前がメディアに本格的に知られたのは、2009年2月16日だった。大田地検特捜部はそのとき、いわゆる「イ・チョルサン・ゲート」の捜査にしがみついていた。イ・チョルサン・ゲートは携帯電話の製造会社、VKのイ・チョルサン前代表が国庫補助金の流用などの方法で秘密資金をつくった後、これをアン・ヒジョン最高委員など、旧与党の386政治家たちに政治資金として渡したという疑惑から出発した。疑惑が集中的に量産されている場所は、検察の周辺だった。そして言論報道はこうだった。
「検察はイ氏がつくったVK秘密資金がマネーロンダリングを経て政界周辺の某関係者の借名口座に流入し、この口座にカン会長の資金も流れている事実を確認した。さらに検察は、この口座に入金された金がアン・ヒジョン氏が2004年に大統領選挙資金事件の裁判で宣告された追徴金4億9000万ウォンを出すのに使われた事実を明らかにした」(『朝鮮日報』2009年2月16日付)
「政界周辺の某関係者」とは、ユン・ウォンチョル前行政官のことだ。彼の名前が「イ・サンチョル・ゲート」で挙げられるようになった主な理由は、彼が2000年代初頭にイ・チョルサン前代表がつくったある企業に3年間勤務したためだった。その後、彼は参与政府発足と共に青瓦台政策調整秘書官室に勤務し、アン・ヒジョン最高委員の側近として活動した。
検察は、ユン前行政官の経歴を基に「イ・チョルサン(カン・グムウォン)-ユン・ウォンチョル-アン・ヒジョンなど」につながる現金授受疑惑を絶えず流した。この過程で『朝鮮日報』などは「検察は、VKの高速成長の過程でイ・チョルサン前代表が参与政府の関係者に政治資金を提供した可能性があると見ている」といった報道を量産した。しかし情報通信業界によると、VKは参与政府発足以前から急成長しており、逆に参与政府中盤の2006年には不渡を出したこともある。「参与政府関係者」の核心であるアン・ヒジョン最高委員をゲートに入れ込むため、検察周辺で事実関係とはかけ離れた話まで流してきたようなものだった。
その後、「イ・チョルサン・ゲート」はどうなったのか?まず「イ・チョルサン-ユン・ウォンチョル-アン・ヒジョンなど」につながる現金授受疑惑は、一編の小説であることが判明した。疑惑の出発点だったイ・チョルサン前代表は、4月25日に保釈となった。現在、法的な攻防が行われている主な内容は、政治資金とは関係のない、イ前代表個人の横領および背任容疑に対する部分だ。
イ前代表の弁論を務めるソン・チャジュン弁護士は、裁判の過程で「国庫補助金の流用という容疑で捜査が始まったが、市民運動出身の企業家という理由で、前政権の政治家たちに対する政治資金流入に関して執拗に捜査を受けた」とし、「市民運動出身の企業家という理由のため、なんの容疑点も見つけられない検察が、『叩けばホコリが出でくるだろう』というやり方で捜査をした」と検察を皮肉った。
法廷では政治資金の代わりに横領・背任の攻防のみ
「イ・チョルサン・ゲート」の核心部分は検察が描いた「想像図」であることが明らかになったが、ひどい目に遭う側は依然として参与政府関係者だった。それはユン・ウォンチョル前行政官の口座のせいだった。検察は当初、イ・チョルサン前代表の国庫補助金流用の詳細を突き止めるために、口座追跡方式で彼の資金使用先を洗い出した。この過程で当然ながら、2000年代初頭に彼と共に働いていたユン前行政官の口座が発見された。この口座を説明するには、2004年の大統領選挙資金捜査の記憶をたどる必要がある。
»民主党が6月4日、「李明博政権の政治報復真相調査特別委員会」を発足させ、政治報復事例に関する真相把握に立ち上がった。6月5日午後、イム・チェジン検察総長が退任式を終えた後、庁舎から出ている。写真『ハンギョレ21』ユン・ウンシク記者
アン・ヒジョン最高委員は当事、大統領選挙資金裁判の結果、4億9000万ウォンの追徴金を宣告された。アン最高委員にとっては、支払う術がないほどの巨額だった。アン最高委員の周辺ではこの事実を知り、資金を少しずつ出し合った。お金が集まった口座が彼の側近だったユン・ウォンチョル行政官の口座だった。アン最高委員と親しかったカン・グムウォン会長が一番多い1億ウォンを出した。ペク・ウォンウ、ソ・ガプウォン、イ・グァンジェ議員もそれぞれ3000万ウォンずつ出したと伝えられた。少ない額では10万ウォンを出した人もいた。
検察はこの事実を基に、4月末にユン前行政官に対する拘束令状を請求した。カン会長が出した1億ウォンを政治資金と規定し、アン最高委員まで捜査するというのが検察の計画だった。「イ・チョルサン・ゲート」の捜査がアン最高委員の政治資金捜査にまで広がったのだ。だがアン最高委員とカン会長を狙うために、まずユン前行政官を拘束しようとした検察の試みは、水泡に帰した。大田地方裁判所のシム・ギュホン令状専任担当部長判事が4月25日、「まだ容疑が具体的に明らかでない他の犯罪捜査を行うために令状を発布することはできない」と検察の行動にブレーキをかけたのだ。
だが検察も引き下がらなかった。6月1日、ユン前行政官の個人斡旋収賄容疑を補完した拘束令状を手に入れたのだ。結局、ユン前行政官が拘束されたことにより、検察は彼を媒介に行われたカン・グムウォン会長とアン・ヒジョン最高委員の政治資金法違反容疑について捜査の手綱を手に入れた。
ユン・ウォンチョル前行政官の事例を長々と紹介した理由は、この事件が「ホコリ叩き的捜査」、「標的捜査」、「過剰捜査」論争を起こした検察の行動を、赤裸々に示す象徴的事件だからだ。特にユン前行政官が拘束された時点は、盧武鉉前大統領の告別式が終わってからわずか3日後だった。盧前大統領の逝去を契機に起こった、検察の捜査方法に対する強い批判にも、検察はまったく耳を傾けていない。
まず「標的捜査」の部分だ。大検察庁は2008年12月、捜査全般に対するガイドラインを載せた『検察捜査実務典範』を発刊した。これを見ると、最初の捜査対象で派生した別個の事件を捜査することは適法だと規定したが、犯罪ではない特定人物を処罰する目的で行う捜査は禁止すると明示した。しかし、検察はイ・チョルサン前VK代表に対する捜査の初期から「イ・チョルサン-ユン・ウォンチョル-アン・ヒジョン」、そして「カン・グムウォン-ユン・ウォンチョル-アン・ヒジョン」などに至る「概念図」を先に描いておき、捜査の焦点をアン・ヒジョン最高委員とカン・グムウォン会長に合わせたという疑惑が提起された。「アン最高委員を必ず召還する」という噂も、大田地検で公然と流れた。アン最高委員の側近であるユン前行政官に対しても、政治資金伝達部分に対する容疑の立証が曖昧で、結局は斡旋収賄容疑によって拘束した検察の態度も後々噂となった。
特定人物への処罰目的の捜査を禁止しておきながら
「ホコリ叩き的捜査」、「過剰捜査」の敢行も、問題だと指摘される。やはり大検察庁の『検察捜査実務典範』には、ある意図を持ってまだ明らかになっていない他の証拠資料を無差別に確保しようとすれば、過剰捜査として評価するとある。カン・グムウォン会長がユン前行政官の口座に入れた1億ウォンの性格に、検察が注目したのは当然のことだ。逆に言えば、検察は1億ウォンの性格のみを究明すればいいという意味でもある。検察はそうしなかった。ここで何歩か踏み出し、包括的に令状を発布された後、カン会長の会計帳簿はもちろん、夫人の口座や家計簿まで見入ったと伝えられている。カン会長が所有していたシグナス・ゴルフ場も押収捜索された。カン会長側は当事、「すでに何度も捜査して、もう調べる内容もないのに、(カン会長の)車に保管していた薬まで持っていった」と話した。特に検察は、カン会長が脳腫瘍の治療を理由に保釈申請をしたときも、最後まで反対した。
検察がユン前行政官に金を渡した人物について無差別に口座追跡を実施したことも、説明されなければならない部分だ。イ・ファヨン前民主党議員も、被害者の一人だ。イ前議員は4月頃、農協から口座追跡の事実を知らされた。農協は「イ・チョルサン・ゲート」を捜査した大田地検特捜部が2008年10月頃、イ前議員の口座情報を調べたと彼に伝えた。イ前議員は6月2日、『ハンギョレ21』とのインタビューで、「私もやはりアン最高委員の追徴金を支援するために、200万ウォンを出したことがあるが、検察がこれを口実に私の口座を調べたと聞いている」、「参与政府関係者のなかには、このように不必要な口座追跡をされた人が多いが、このように口座を調べた後、実際に本事件とは関係なく当事者がよく言った店まで一々調査したと把握している」と話した。
これに関連して、民主党は6月4日、「李明博政権の政治報復真相調査特別委員会」(真相特委)を結成し、本格的な攻勢に出る態勢だ。真相特委は検察の政治報復に関連する真相究明と、国税庁による政治報復的税務調査疑惑の究明、盧前大統領と側近に対する政治報復的捜査の有無を把握する計画だ。イ・ファヨン前議員などに対する無分別な口座追跡事例も、すべて調査の対象に含まれると伝えられた。
真相特委はすでに盧武鉉前大統領の逝去に関して、大検察庁の捜査関係者を被疑事実好評容疑でソウル南部地検に告発した。告発対象はイ・インギュ中央捜査部長、ホン・マンピョ捜査企画官、ウ・ビョンウ中央捜査1課長だ。民主党は告発状で「イ中央捜査部長などは、盧前大統領の捜査を進めながら客観的な証拠や事実を基に捜査結果をブリーフィングするレベルではなく、捜査の進行状況をブリーフィングし、贈賄という客観的な証拠や状況のない個人的な贈物についてもマスコミに流した」と明らかにした。真相特委はこれと共に検察改革のための3大課題として、△公職腐敗捜査署(公捜署)の設置、△中央捜査部(中捜部)の廃止、△被疑事実公表罪制度の改善などを提示した。
民主党、「政治報復真相特委」発足活動に出る
パク・グンヨン参与連帯私法監視センターチーム長は、「それぞれの第一線の地検特捜部で十分にできる特別捜査機能を、今のように大検察庁中央捜査部が担当する限り、検察捜査に対する政治的論争は避けることができない」とし、「どうしても高位公職者に対する専任捜査機構が必要ならば、大検察庁中央捜査部をなくす代わりに、参与政府のときに設置しようとして失敗した高位公職者不正捜査署などで代替するべきだ」と語った。
チェ・ソンジン記者