日本版「北風」の虚と実/李鍾元
北朝鮮の「人工衛星」発射により、日本列島に「北風」が吹き荒れている。麻生太郎政権が起死回生する兆しが見え、核武装論や敵基地攻撃論など、平和憲法と専守防衛の原則を飛び越える主張がはばかることなく提起されている。そして近いうちに日本の政権選択がかかった総選挙が行われる。日本の国民がどんな道を選択するのかは、朝鮮半島や東北アジア情勢とも密接な関係がある。不幸な歴史の繰り返しではない、望ましい方向を期待する視点から、圧倒的な「ミサイル狂想曲」の主旋律に遮られたいくつかの可能性にじっくりと焦点を当ててみよう。
まず第一に保守性向が強い麻生政権内でさえ、日本の過剰反応に対する憂慮と慎重論が提起されたという点だ。日本国民の不安感を背景にミサイル迎撃論が沸騰する状況下でも、「政府高官」が迎撃の技術的な成功可能性に対して正面から疑問を呈し、中曽根外相もミサイル迎撃の政治的・技術的な難しさを認めた。ミサイル防衛システムの初出動という今回の決定過程では、防衛省と自衛隊の積極的な強硬対応論が目立った。現在まで1兆円という巨額の予算を投入したミサイル防衛の正当性を証明し、これを一層拡大しようという利害関係が背景にあるのは当然だ。しかしミサイル防衛の突出は、国家全体の財源配分の多大な負担になり、政策が具体化するほどこれをめぐる葛藤も増幅されてしまうものだ。アメリカのオバマ政権がミサイル防衛構想自体を再検討しはじめた状況で、日本の推進論も小さくない影響を受けることになるだろう。
第二に、今回の事態は逆説的に日本が導入したミサイル防衛システムの実態に関する、現実的認識の契機になった。心理的不安感を背景に、「ミサイル迎撃」体制に日本国民の81%が支持した。(『産経新聞』2009年3月20日付)しかし、これと同時に具体的な議論過程で迎撃ミサイルの射程距離や防衛範囲、技術的成功加工性などに限界があるという事実も明らかになった。予告された「人工衛星」推進ロケット一つにも対応が容易ではないシステムが、果たして日本の主要都市を射程圏に入れたロドンミサイル100~200基の脅威に対処する現実的手段になりうるのかという、当然の疑問だ。ミサイル防衛拡大論の前途が、それほど順調ではないであろうことを予告する一場面だ。
三番目に、政界とメディアに広がった強硬論に比べ、一般国民の世論がより冷静で現実的な側面を見せているという点だ。北朝鮮の「人工衛星」発射を前後して、日本の民営放送局『TBS』が実施した世論調査を見ると、「ミサイルであれ人工衛星であれ強硬対応」が29%、「ミサイルであれば強硬対応、人工衛星であれば冷静な対処」が34%、「ミサイルであれ人工衛星であれ冷静な対処」が35%であった。表面的な雰囲気とは違い、意外と落ち着いた意見が多数を占めている。主な関心が経済回復と雇用問題に集中している状況、安倍政権以来の対北朝鮮強硬政策がなんの成果も出せないでいる点などが複合的に作用した結果だと思われる。
低支持率に苦戦している麻生政権が、総選挙を目前にして「北風」を最大限活用しようという政治的動機があるだろうが、その実質的効果はそれほど大きくないだろう。歴史認識や憲法改正のような理念的右傾化の旗幟を明らかにした安倍政権が国民の現実的な要求と乖離し、空中分解したのはそれほど昔の話ではない。
「ミサイル発射」の余震が静まれば、米朝関係をはじめとする「外交」が本格的に動きはじめるだろう。日本も政治外交の方向設定をめぐって重要な分かれ道に差し掛かっている。
李鍾元/立教大学教授・国際政治
『ハンギョレ』 2009年04月10日