犬でも当選と外電で報じられていた通り、李明博(イ・ミョンバク)前ソウル市長が2位以下の候補者と圧倒的な票差をつけて大統領選挙に当選しました。あ、もう先週の水曜日の話なんですね。現地にいるのに反応がムチャクチャ遅くてすみません。
「圧倒的な票差」といっても全体の投票率が63.0%(前回70.8%、前々回80.7%)ですからね。個人的な感想というか、私の周りの韓国人有権者を見ていて思ったことは、事前に「李明博候補の圧倒的有利」があまりにも報道されたことと、「李明博はイヤだけど他に入れたい候補がいない」という現状に諦めて投票しない人が結果的に李明博候補の得票率を押し上げてしまったなと。あ~あ。
いや~、投票日の翌日は、会社で「どこの国に移民するか」という後ろ向きな話題で盛り上がりました。は~い。は~い。私も国捨てた~い。ってね。なんかブッシュ再選直後にカナダ移民局のサイトへのアクセスが急増したっていうニュースを思い出すなぁ。
社説ウオッチング:韓国大統領選 北朝鮮は現実直視を
(毎日新聞 2007年12月23日)
さて、上の毎日新聞の記事にあるように、韓国の四大紙では保守系の朝鮮日報、東亜日報、中央日報がおおむね李明博候補の当選を歓迎する論調、リベラルのハンギョレ新聞は文句タラタラな論調でした。
んで、その文句タラタラなハンギョレに、ソウル大学の教授が李明博当選者(いやん、候補者→当選者→次期大統領→大統領と、肩書きが変わっていくのね)に宛てた皮肉の効いたコラムが載っていました。それではどうぞ。
李明博次期大統領へ/チョ・グク
まずは李明博候補の大統領選当選おめでとうございます。家族の偽装転入や子女の偽装就業が確認され、道谷洞(ドゴクドン/地名)の土地やBBK実所有疑惑が選挙の直前まで争点になったものの、当選者は投票者のほぼ半数の支持を得て当選しました。なぜ多数の有権者は、当選者の道徳性に関して基準の低いものさしを使って寛大さを示したのでしょうか?実際には盧武鉉政府の下で民主主義や朝鮮半島の平和が安着し、量的な経済成長が達せられたにもかかわらず、です。
それは雇用不安や両極化が深刻化し、不動産価格は高騰、教育費の負担は増大するなど庶民の暮らしは苦しくなる一方だからです。執権勢力はこのような問題の深刻性に気づかないまま実効性のない政策を打ち出し、離合集散に明け暮れました。その結果、国民の信頼を失い、無残な敗北を自ら招いたのです。
現在、ハンナラ党はお祝いムード真っ只中でしょうね。実際、すでに一部の地域を除いてハンナラ党は地方自治体の議会を掌握しています。そして李明博氏の大統領選当選で中央政府まで掌握したため、来年4月の総選挙さえ勝利すれば完璧に国家権力を掌握することになります。
しかし当選者は祝杯をあげて喜んでいる場合ではありません。選挙期間中、BBKに関する攻防のために、当選者の政策に対する検証はろくに行われませんでした。しかしこれから国民は当選者がどのような方式で経済を立て直すのか、成長の果実を誰に与える政策を選択するのかに注目するでしょう。特に当選者が財閥偏向の成長一辺倒の経済政策を推進するのではないかと憂慮しています。もし当選者が庶民の苦しみを解決できず、むしろ悪化させる政策をとるのならば、民心は背を向けることになるでしょう。当選者は選挙用広告で遊説中に庶民の“助けてください”という訴えを聞いて泣いたそうですね。当選者がこのような切迫した訴えを常に思い起こすことを切に願います。
当選者は韓国社会を様々な次元で“右向け右”させると公言したことがあります。しかしこの方向が行き過ぎれば、社会の葛藤が再燃してしまうでしょう。例えば南北関係を冷戦的基調に引き込んで朝鮮半島の平和を揺るがし、企業犯罪は軽くいなす一方で労働者のストには強権を発動し、環境破壊が予想される大運河工事を強行すれば、どうなるでしょうか。爆発性の社会懸案に対して当選者はご自身の別名でもある“ブルドーザー”のような解決方法を動員しないことを願います。
一方、当選者に対する特別検査の捜査が予定されています。大統領選挙の直前に通過した特別検査法には、当選者に反対する陣営の政治的利害が反映されています。しかしこのような事態が起きたのは、明らかに当選者自身の言行のせいでもあります。論争の的になっている検察捜査にも道谷洞にある土地の実際の持ち主が当選者の実兄であるイ・サンウン氏ではなく、その土地を売ったお金がBBKに流れたという点は確認されました。当選者がBBK株価操作には関与していないとしても、この会社を広報し、投資を勧めてまわったという点は事実です。もし李当選者が大臣候補だったならば、マスコミや国会の検証過程で落馬していた可能性が高いでしょう。このような点で当選者は自分に対する批判や特検捜査に謙虚に対応しなければならず、認めるべきことは認める姿勢を示すことを期待します。
当選者は2位の候補とは圧倒的な差をつけ、改革進歩陣営の候補らの票全てを合わせた票数よりも多くの支持票を獲得しました。これは当選者の政策推進に力を添える要因になるかもしれませんが、同時に当選者の驕りや独善を焚きつける要因にもなるでしょう。当選者がこの点に留意し、自分の約束した“成功時代”が本当に国民全体の“成功時代”になるように努力することを願ってやみません。
チョ・グク/ソウル大学法学部教授
(ハンギョレ 2007年12月20日)