■ 家族の肖像
パリ郊外の“ナンタラカンタ~ラ(←その後も何度も聞いたのだが、結局
長くて覚えられなかった)”という町にある、お兄さんちにやっと着いたのは
お昼を過ぎたあたりであった。
出迎えてくれた兄嫁さんからは、パキスタン式の挨拶を受けた。
パキスタン式の挨拶とは、“ハグハグ”である。
男女間では絶対にしないが、男同士、女同士ではハグハグしちゃう
のです。右と左で1回ずつ。
そーいや、彼氏はイースト・ロンドンで知り合いに会う度毎にハグハグ
してたっけ。“やーひさしぶりー(ハグハグ)”みたいに。
しかし、スキンシップに慣れてない日本人としては、こーゆー挨拶を
されてしまうとフリーズしちゃうのです。
そして、兄嫁さんが着ているパキスタンの民族衣装の裾を握りしめて
恥ずかしそうにこちらを見上げている3歳の甥っ子と2歳の姪っ子。
二人とも目がクリっクリで、めっちゃカワイー!
でも何語で話しかけていいかわからず(ていうか言葉自体できないし)
間がもたないので、甥っ子を抱き上げてごまかす。
しかし、甥っ子は
「この顔も、体型も真っ平らなイキモノは何?」
という戸惑いの表情のままフリーズしてしまった。ハハハ。
あ、ここで、解説を入れますと、
お兄さんはフランスに帰化しているのでフランス人です。
出生地主義*のフランスで生まれた甥っ子・姪っ子も当然フランス人。
んで、結婚するまではパキスタンにいた兄嫁さんは、パキスタン国籍
ですが、子供が5歳になるとフランス国籍をゲットできるらしい。
【出生地主義;親が何人だろうと生まれ育った国がその人の国という
考え。ちなみに日本は血統主義で、たとえ日本で生まれ、日本の
教育を受けて日本人同様に育っても、親が日本国籍でなければ
日本人ではない!という考え。】
これに比べ、単一民族(実際は違うのに)だのナンだのと言ってる
日本や韓国の、何とケツの穴の小さいコトよ。
仁川空港の入管で、係官からイヤガラセのような質問を受けていた
中国人やバングラディッシュ人も、この国にきて子供を作れよ、
と思ってしまった。
(それが出来ないから、彼らも苦労してるんだろうケドさ)
■ 言葉の壁なんて?
兄嫁さんが作ってくれたお昼ご飯を食べたあと、お兄さんと彼氏は
「あるぱじょ~ん」という町にあるお兄さんの店に行ってしまった。
(↑コレはちゃんと覚えたゾ)
残された私は、兄嫁さんのお手伝いでもしたいけど、家は片付いてるし、
晩ご飯の準備にはまだ早い。
だから、甥っ子と姪っ子と遊ぶ(遊ばれる?)ことにする。
しかし、どうやって打ち解けるか?
お兄さんちは、家庭内ではウルドゥー(パキスタン語)、家を一歩出ると
フランス語という環境である。
甥っ子・姪っ子はそういった環境でバイリンガル予備軍として育っている
わけだが、私、そのどちらもできのよね。
兄嫁さんとは英語で話をするが、このコたちとは、はて、何語で?
まずは、“ビッグ・バード”のモノマネをしてみるが、ウケナイ。
“クッキー・モンスター”をするにはクッキーがない。
捨て身で“エルモ”のマネをしたが、無反応だった。
きっと、フランスでは「アメリカの腐敗文化の象徴」とかナンとか言って、
『セサミ・ストリート』を放送してないのね。
私のお気に入り番組なのに…。
そこで、その部屋にころがっていたクロコダイルの巨大なぬいぐるみで
追いかけまわしてみる。
「ぷしゅー、ぷしゅー」とか言いながら。
すると甥っ子も姪っ子も大ハシャギ。
キャラキャラ笑いながら逃げまくる。
ガキの相手に言葉はいらんですたい。
(ていうか、2歳と3歳の子供って、母国語もまだまだじゃん!)
■ 流儀が違う!
7時くらいになって、兄嫁さんが夕食の準備をはじめた。
お兄さんのお店は8時までで、だいたい8時半くらいにもどってくるとか。
さぁ~、私もお手伝いしますよ~。
「チャパティ焼ける?」と、兄嫁さん。
「そりゃ、彼に教えてもらってますから」と自信満々の私。
しかし、兄嫁さんが準備しているのは、
ほぼ真っ平らなチャパティ専用のフライパン。
→あれ、テフロン加工のフツーのフライパンじゃないの?
全粒粉でねった茶色いタネ。
→韓国で使ってるのは精製された白いのっス。
そして、取り出されたのは巨大なめん棒。
→あれ、両手でパチパチと広げていくんじゃないの?
で、あった。
どうやら、家庭ごとにみそ汁の味が違うように、チャパティの焼き方にも
いろいろと流儀があるらしい。
兄嫁さんは、慣れた手つきで生地を均一な厚さに伸ばしていった。
私も見よう見まねでやってみたが、全粒粉の生地はあまり弾力がなく、
伸ばしたら伸びっぱなし。縮んでくれない。
兄嫁さんのように、真ん丸にならない。厚さも均等にならない。
結局、私がやった第一号は、デカすぎ、薄すぎで却下になった。
はうっ。
でも、焼くのだったら手伝えるか…?
そう思って「スプーン貸してください」と言ったら
「スプーン?そんなの邪道よ」と、また却下された。
韓国のわが家では、スプーンを使ってひっくりかえしたり、フライパンに
押し付けたりして焼いているが、兄嫁さんは乾いたフキンを使っている。
そーいや、パキスタンでは素手でひっくりかえすとかって言ってたっけ。
はうぅ…。
役立たずでゴメンナサイ…。
■ 不肖のヨメ
チャパティは焼けた(みんな兄嫁さんがして、私は結局ジャマしただけ)。
すでに、オカズはできている。
あと、サラダでも作りましょうか、ということになった。
(ホッ、それくらいなら手伝えそう)
「じゃ、トマトを切ってね」とトマトとナイフ(だけ)を手渡される。
兄嫁さんは、サクサクときゅうりをスライスしている。
それも、まな板なしで、えんぴつでも削るように。
そーいや、アウェイズもまな板を使わずに野菜を切るよな。
これはパキスタンの流儀なんだろうか?
しかし…、私はそんな切り方できんぞ。
豆腐のように手のひらにトマトをのせて切るか?と一瞬なやんだが、
手を切ってよけいにメイワクをかけてもと、ここは素直にまな板を
出してもらった。
んで、無難に8分の1のくし型に切ってボウルにぶちこもうとしたが、
兄嫁さんはそれを見て、
「ちょっと…、大きすぎるわネ」と一言。
そうっスね。きゅうりやレタスのサイズに比べてデカすぎますね。
一口サイズっても、口からはみ出しちゃいますね。
あわてて2.5センチ角くらいに切り刻む私。
はうぅ…。大ざっぱな田舎モンと思われてしまったか!?
ここに、1本のダイコンがあったならば、かつらむきにいたしましょう。
1匹のアジがあったならば、3枚におろしてみせましょう。
あぁ~!でも、ここにはそんなモンないィ~!
それに、他人の家の台所って、勝手が違って使いにくいィ~!
大阪の兄嫁が、盆正月などに広島のうちに来たとき、料理は全部
うちの母か私に任せ、自分は皿洗いだけ(!)に徹する気持ちが
よぉ~くわかった。
ヨメの立場がよぉ~くわかった。
《まだまだ?ぱーと6へ続く》