先日の「
韓国の死刑制度はどうなっているんだろう?」エントリーに使った韓国語の資料の日本語訳です。
この記事の補足として、事件の背景を簡単に説明いたします。韓国では金大中政権発足以降、死刑が執行されていませんが、法制度としてはまだ死刑制度は残っています。そんな中、死刑宣告を受けた死刑囚が収監されてから8年後に肺ガンで死亡したことが今年の9月に明らかになりました。
死刑制度存続派と廃止派の間で「これは法務省の不履行によるもので、死刑囚は罪を償ったことにならない」、「これは死刑囚といえども生命を尊重したものだ」という論争が展開されました。この事件を契機として韓国ではさらに死刑廃止に一歩近づくことになるかもしれません。(もっとも今は北朝鮮の核問題で、そんな議論はぶっとんでしまいましたが)
以下の記事は国民日報の2006年9月10日の記事です。それではどうぞ。
[死刑囚初の自然死]
「罪を償わなかった」「命を尊重した」と論争
避けることのできなかったもう一つの死。結果的には同じ死であっても、その過程が違うC氏の死は、死刑制度の存廃をめぐって論争ばかりを繰り返している韓国社会には意味ある事件だ。このままで行けば、死刑囚64人(軍人1人を含む)も(刑死ではない)自然死を迎える可能性が大きく、現行の死刑制度は有名無実の法装置として残ってしまうためだ。
◇自然死がなぜ可能だったのか=彼の死は政府が法に従って死刑執行を実施していれば起こらなかったことだ。現行の刑事訴訟法には法務大臣が判決確定日から6ヶ月以内に執行命令を下し、その命令が下されてから5日以内に執行をするように規定されている。しかし、97年12月以降、この法は守られていない。
さらに死刑囚は刑の執行が行われていない未決囚の身分であるため、今回の死によって法務省が裁判所の死刑判決を履行しなかったという責任問題が浮上するかもしれない。与党ウリ党のユ・インテ議員など、与野党の議員175人が2004年に国会に提出した「死刑廃止に関する特別法案」も国会の法制司法委員会に係留中で、足踏み状態から抜け出せない状況だ。
このため、C氏の死亡は死刑制度が廃止される過渡期に現れる現象というのが大多数の評価だ。実際に国際アムネスティ(AI)は10年間死刑執行を行わなかった国を「潜在的死刑廃止国」として分類しているが、韓国は現在8年8ヶ月で、来年まで執行がない場合はこれに該当することになる。
死刑制度とは別個に、拘置所が死刑囚をちゃんと管理しているのかという疑問もある。直接の死因である肺ガンは、初期に発見されればある程度治療が可能だが、C氏は肺ガンが脳に転移した後に釜山大病院に移送され、5月になって発見された。ある行政官は「拘置所の職員の立場では、死刑囚は絞首刑の執行まで生存させるために特別に管理される」「しかし職員不足などが深刻で、24時間監視することはできない」と話した。
◇生命尊重 対 処罰未執行、賛否意見分かれる=彼の死亡に関する解釈は分かれている。まず死刑廃止論者はC氏の死亡について「国家が生命を奪わなかった」と肯定的に評価している。どれほど凶悪な犯罪を行った死刑囚だとしても生命に対する権利は持っているべきだというのがこれらの主張だ。
キム・ヒョンテ弁護士は「現在、死刑制度廃止を訴える市民・宗教団体が主張していることは、このように(死刑囚を)釈放しないまま、自然死するまで生命を尊重すること」だと話した。
しかし、死刑執行による精神的な救いを願っていた被害者や遺族は「罪を償わなかった」という面で受け入れることが困難だという立場だ。クァク・デギョン東国大警察行政学科教授は「犯罪の対価として宣告された刑が執行されないことは、社会正義が実現しないという側面がある」と話した。
死刑囚でありながら、実際の議論からは排除されていた死刑囚64人についてどのように対処するのか、今から真剣に考えなければならないという意見もある。キム・ミンホ成均館大学法学科教授は「すでに宣告を受けた死刑囚については、どのような形であれ、議論されたことはない」「(C氏の死は)単純な死刑制度の存廃議論から新たな問題を浮上させる契機となるだろう」と話した。
◇「死刑執行モラトリアム必要」=専門家はC氏を起点として自然死する死刑囚が増えていくであろうだけに、いずれにせよ死刑制度の論争の結論を出さねばならないと主張している。この中で最近浮上した代案は、政府が公式に死刑執行猶予(モラトリアム)を宣言し、社会的合意を導くというものだ。
一例として、アメリカのイリノイ州政府は2000年に死刑執行一時中止を宣言し、死刑制度改善のための委員会を設置、既存制度の問題点を研究した。委員会の調査によって冤罪など、死刑制度の問題点が明らかになり、州政府は2003年、死刑囚167人全員を無期拘禁刑に減刑した。
韓国刑事政策研究院のキム・ハンギュン研究員は「政府がはっきりとしない態度で慣行とするよりは、今回の事件を契機として死刑執行中止を公式に宣言して議論を急いだ方がいい」と話した。