村野瀬玲奈さんからリベラシオンの21日の記事が届きました。村野瀬さんいわく、「速報的な意味合いもあると思われる前日20日の記事をベースに、より詳しい内容に加筆修正されています。ただ、前日20日の記事も捨てがたいのは、記事のイントロの自民党の紹介語句に「歴史的(有史前)政党」とあることです。有史前という括弧書きの書き加えのお茶目さが味わい深いです。」とのことです。
そうか、あのアベシどアップ・ウルウルの瞳・チョボチョボのお口・キモイ写真が載っていた記事は速報のようなものだったのですね。こちらの壷三はドアップではありませんが、日の丸をバックにふんぞり返っております。あまりキモチのよいものではありませんので、クリックの際はご注意ください。
自民党総裁に選ばれ、9月26日に首相の地位につく
安倍晋三、偉大なる日本をつくるための「タカ」
2006年9月21日
右向け!驚きもなく、1955年以来日本の権力の座にある歴史的政党、自民党は水曜日、前任者小泉純一郎よりもポピュリスト度は低いが超保守主義者政治家であり国家主義者度も同じくらいある、最も急進的な大物の一人であるタカ派の安倍晋三を3年任期で総裁として選出した(703票中464票を獲得)。彼の首相指名は9月26日になる予定。
52歳の安倍晋三は、今までに選ばれた首相の中では最も若い(戦後生まれの初の首相でもある)が、野党陣営の中にも、彼の陣営の一部の若手代議士の中にも、安倍が「老人の思想」を奉じ、激高型小泉よりも現代性や実用性が低いとして批判する者は大勢いる。「安倍晋三は小泉のふところの中で育った狭量な人物である。彼の統治方法からは何も期待できない。」民主党(野党)の若い聡明な参議院議員犬塚直史はダルフールへの派遣から帰ってきて、こう予言する。「小泉と同じく、安倍は日本の外交をアメリカの利益だけの外交に合わせるだろう。そして、マクロ経済的観点からは、前任者と同じ超経済自由主義路線を守るだろう。」したがって、何らかの変化はあるだろうが、順応主義のしるしが目立つ変化となるだろう。
動揺している内向的人物
企業の利益がふたたび爆発的に伸びている世界第二の経済大国である変わり目の日本の中で、とても移り気になった選挙民の人気を得るために安倍晋三はどれほど必死に仕事に取り組まなければならないことだろうか。日本では、多くの専門家が、彼は前任者のスタイルも貫禄もないのにもかかわらず、まさしく「小泉のやったことをやらなければならない」だろうとみている。日本のマスメディア、特にテレビを操作する能力はもっとない。小泉はテレビ映りの良いエースだった。興行のプロだった。むしろ安倍は動揺している内向的人物を思わせる。経済では正統派、政治では伝統派の彼は、「経済への国家の影響」を軽くするための新しい政策をとるつもりである。特に、国際舞台での「日本の権威を確立する」ことを望んでいる。彼は日本の平和憲法を見直すことを公約している。その目的は、日本の軍隊により大きな行動の自由を与えることである。安倍は特に、日本の「聖なる価値」を擁護している。彼の予告によると、彼は学校で愛国心を強化するであろう。彼は日本でとても広がっている歴史修正主義を批判したことはない。昨日、彼は「国家のたいまつを守っていきたい」と説明している。
彼が強く熱望するものを日本がこのように得られるかどうかは定かではない。大きな国連改革と安全保障理事会の常任理事国入り。この大きな一歩はとりあえずは、日本の第一のビジネスパートナーになったのに今緊張関係にある中国との外交的絆を強化することによってしか進まない。
本当の経験がなく、外交に少し鍛えられただけの安倍(彼の父は外務大臣であった)が彼の家系の中に少々めんどうな祖先を持っているからなおさら、この課題の先行きはむずかしい。安倍は実は、アメリカとCIAによって奇跡的に罪を免除された戦犯でありながら1958年から1960年まで首相になることができた岸信介の孫なのである。
靖国神社
2001年以来、東京にある靖国神社(そこには戦死者の中に14名の戦犯が祀られている)への小泉の度重なる参拝は北京とソウルとの関係を深く損なった。そして今のところ、方針変更は望めない。安倍は彼の所属政党の一部のメンバーに求められている神道神社の非神聖化に賛成しているようには見えない。戦犯の分祀を命ずる気もなおさら持っていないようだ。
まだ首相の職務に入ってはいないが、安倍晋三はすでに深刻な問題、つまり彼自身の無節操さに直面している。一ヶ月前、彼は北朝鮮のリーダー金正日を付き合える人間になるように説得して、特に核開発計画と弾道ミサイルを放棄させるように仕向けることができるとうけあっていた。その間、7月5日の北朝鮮の7発のミサイル発射への報復として、安倍は北朝鮮の政体に対抗する経済制裁の新計画を練ることに前向きになっている。昨日、東京では、この計画には日本から北朝鮮への北朝鮮資金の移動の凍結が含まれることが予告された。この態度硬化を前にして金正日がさらに威嚇的態度を強める可能性があることを疑うものは誰もいない。たとえば、北朝鮮の最初の核実験にゴーサインが出されるかもしれないのである。安倍晋三は「外交的勇気」を持っていると強調した。彼には外交的勇気がたしかに、大いに必要であろう。
【リベラシオンWeb版:2006年9月21日付】
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(村野瀬玲奈さんによる翻訳上の解説)
ところでこの21日の記事は結びの一文にワサビがきいていますので、ちょっと解説を。
原文は
Il en aura, il est vrai, beaucoup besoin.
という、2つのコンマで3つのかたまりに区切られた短文です。
真ん中の「たしかに (il est vrai)」という副詞的挿入句まで、つまり、"Il en aura, il est vrai" までだけを読むと、「彼はたしかにそれを持っているだろう」という意味になります。ここまで読んだ瞬間、読者の頭の中には「安倍には外交的勇気がある」という意味が一瞬点灯するわけですが、文の最後の2語、"beaucoup besoin" が真ん中の副詞的挿入句を飛び越えて、文の最初の "Il en aura" と結びつくことによって、別の熟語「~を必要としている (avoir besoin de)」が浮かび上がり、最終的にこの文は「安倍は外交的勇気を大いに必要とするだろう」という意味として成立します。つまり、たったの数語読み進むうちに「安倍は外交的勇気があるだろう」から、「安倍には外交的勇気がない」という暗示にまで、読者の意識の中で意味が一瞬のうちに逆転するのです。
短い文に込められたこの鮮やかな効果に拍手、パチパチパチ。