立教大学の李鍾元(イ・ジョンウォン)教授によるハンギョレ新聞への寄稿第7弾です。9.11テロ5周年の翌日、9月12日に掲載されました(紙面ではおそらく今日)。
私は基本的に翻訳した文章は、文字を大きくしたり色を変えたりといった“加工”はしたくないのですが、今回の寄稿はデカ文字にして強調したい部分がたくさんあります(結局、加工はしていませんが)。それではどうぞ。
9.11テロ5周年の危険な世界/李鍾元
先日7日の演説で、ジョージ・ブッシュ米大統領は「アメリカはより安全になった」と、この5年間のテロとの戦いの成果を自賛した。ちょっと前までは「世界はより安全になった」と言っていたことが思い出される。極めて厳重な“本土防衛”のおかげでアメリカは多少安全になったのかもしれないが、「テロをなくす戦争」の結果として世界がより不安定で危険になったという事実をひそかに認めているようでもある。
テロをなくすための戦争が世界中にテロを拡散させているという逆説は、アメリカ自らが様々な数値で証明している。国務部年次報告書「各国のテロ:2005年」(2006年4月7日発刊)を見ると、2005年に世界各地で起きたテロは1万1111件に達する。2003年の208件、2004年の3168件と比べると、爆発的とも言える増加の仕方だ。2005年の場合、全体の約30%に当たる3500件余りがイラクで起きたが、これを除外したとしてもテロの世界的な拡散傾向を充分に示している。
テロの被害者も急増している。2003年に4271人だった死傷者数は2004年には9300人、2005年には4万人に達する。このうち死者は2003年に625人、2004年に1907人、2005年には1万4602人を記録した。2005年のテロ犠牲者1万4602人のうち、イラクが7450人で全体の半数以上を占めている。国連の最近の統計を見ると、今年の7月だけでもテロによって死亡したイラク人は3438人にもなる。
テロとの戦いにおける米軍の被害も、今年に入って9.11テロの犠牲者数を超えた。2003年3月のイラク戦争開始から今までの米軍の戦死者は2671人(9月11日現在)だ。このうち、初期の主要な戦闘での犠牲者は140人で、全体の5%にも至らない。ほとんどがイラク戦の“勝利宣言”(2003年5月1日)以降の戦死者だ。
イギリスを含む多国籍軍全体の戦死者は2904人で、これにアフガン戦争の戦死者475人(このうち米軍336人)を加えれば9.11テロの犠牲者の総数3030人(このうち世界貿易センターの犠牲者が2801人)を大きく上回る。もちろん、最大の犠牲者はイラクの民間人だ。イラク戦争の民間人犠牲者を調査している国際NGOの“イラク・ボディ・カウント”は、戦争とテロによるイラクの民間人死亡者数を最大で4万6318人、最少でも4万1650人と集計している。
アメリカの戦費負担もとてつもない水準だ。イラクとアフガニスタンに関する戦費は現在毎月100億ドルに達する。イラク戦費は2003年480億ドル、2004年590億ドル、2005年810億ドルと、むしろ増え続けており、2006年には合計940億ドルに達すると推測されている。これはアメリカが1964~72年にベトナムに投入した年平均の戦費610億ドル(現在の貨幣価値に換算)をすでに超えている。
2007年度のアメリカの国防予算は約4400億ドルだが、エネルギー省予算に含まれている核兵器関連予算の220億ドルと、別途会計のイラクとアフガニスタンに対する戦費をすべて合わせればアメリカの軍事支出は6000億ドルという天文学的数字を記録することになる。それにもかかわらず、テロとの戦争の最前線であるイラクとアフガニスタンの状況は、むしろ深い泥沼に陥っている。
ネオコンの理論家、フランシス・フクヤマが最近の著書『岐路に立つアメリカ:ネオコン以後』で自省的に指摘しているように、戦争(軍事力)という手段でテロに対処するという“ブッシュ・ドクトリン”の破綻は否定することができない。アメリカの不安定を補完する地域協力の枠が焦眉の急である現在、相互不信が深くなるばかりの東北アジアの現実が残念でならない。
李鍾元 立教大学教授・国際政治