加害者は忘れられ、被害者は獲物に
『ハンギョレ21』[2009.07.13第768号]
[表紙物語]愛と暴力の間を行き交う大衆の関心
小さな噂まで拡大再生産され、2次・3次被害に苦しむ芸能人
▣イム・インテク
»「チャン・ジャヨンさんの死、聖域のない捜査を」韓国性暴力相談所、韓国女性団体など、女性団体の会員たちが3月18日、京畿盆唐警察署の前で徹底した捜査を求めて記者会見を開いた。写真/聯合=キム・インユ
2005年1月、いわゆる「芸能人Xファイル」が暴露され、芸能界が衝撃に襲われた。登場人物をめぐって社会全体に噂が流れ、道徳や倫理を裁断した。芸能人個人を超え、職業自体が「人権水没地帯」に不可抗力的に追いやられていることを如実に表わしていたそのときほど、芸能人が一体になって反発した事例は、その以前にも以後にもなかった。ところが、加害者である第一企画と被害者との間で合意が交わされたという事実を除いては、誰もその「以後」を知らない。この事件の起承転結は、芸能人の人権搾取という特殊な構造と、問題解決の限界を象徴している。
『ハンギョレ21』が取材した結果、当事の芸能人Xファイル訴訟をもみ消すために、第一企画が芸能人のプロダクションに提案した合意金が、韓国芸能マネージメント協会の創立追加資金として、そっくりそのまま使われたことが確認された。
当事、被害者側の芸能人が所属していた45のプロダクションは、非常対策委を組織し、芸能人Xファイルを作った第一企画を相手に名誉毀損、業務妨害などを理由に集団訴訟を提起した。告訴人は59人の芸能人だった。最初は10億ウォンを提案した第一企画は、非常対策委と水面下で交渉し、「芸能の発展という名目」で12億ウォンの提供を約束して合意に至った。結局、訴訟は提起から20日余りで取り下げられ、芸能人初の「広告ボイコット」も撤回された。
「芸能人Xファイル」事件の合意金の行方
「権力者たち」の間で、損益計算も迅速に行われた。合意金は被害者であり、告訴人である芸能人の代わりに、所属するプロダクションの利益導出、マネージャーの処遇改善などを事業目標にした協会結成に転用された。国内最大の広告企画社が、数百人の芸能人に対して主観評価として値段をつけた「暴力詳述」、悪質な噂まで寄せ集めてまとめた「人格殺人」もあっという間に忘れ去られた。
韓国芸能マネージメント協会のホン・ジョング副会長は「合意金は芸能人に問いかけ、協会結成や今後の事業基金に使うということに同意を得た」とし、「プロダクションのサービスや質を高めることが芸能人(の処遇)を高めることになるという意見を集約した」と話した。当事、非常対策委員会(非対委)に参加したあるプロダクションの代表は、「社会に寄付しようとしたり、合意自体がだめだという意見もあったが、埋もれてしまった」と話した。
このように芸能人自身の人権問題に対する最初の組織的対応さえ、一度きりの「パフォーマンス」に帰結してしまった。スター級の芸能人でない限り、広告主や所属プロダクションに服従するしかない転覆不能な構造のせいだ。
だから法が入り込む余地は狭い。実際に、当事訴訟を代理した法務法人ハンギョルは、第一企画はもちろん、非常対策委からも事実上排除された。ハンギョル側は「(第一企画が合意のために)公式的に接触せず、(プロダクションの代表たちに)個人的に接触している」と当事の記者会見で明らかにした。ハンギョルのユン・ボンナム弁護士は、「当事、非常対策委から、合意したので取り下げるという指示が下ったのがすべて」だと語った。
法も「2次被害」を防げず
法が芸能人の味方になることは難しい。芸能界で個人ができる選択自体が、権力者が作った秩序の下でのみ可能なためだ。その絶頂が性上納であり、チャン・ジャヨンさんだったが、それさえも不十分な捜査で終わってしまった。当事、酒宴・寝所の強要、暴行、名誉毀損などの容疑で20人が走査線に上がったが、ドラマPD、金融家、プロダクション代表など5人しか立件されず、問題になった。警察はチャン・ジャヨンさんの所属プロダクション元代表のキム某(40)氏を7月3日に召還し、内偵捜査中止者4人などに対する補強捜査を行う方針だ。いわゆる「チャン・ジャヨン・リスト」に挙げられた人物に対する接待を強要したのか突き止めるとしているが、すべてが明らかになるかは不明のままだ。
芸能人の人権侵害が日常化し、解決が困難な上に、その過程で2次・3次被害が加わるのには様々な理由がある。
何よりも芸能人という職業柄、人権を完全に守ることは難しいということに大部分が同意している。大衆の関心を最重要視しているためだ。関心は「愛」と「暴力」の境界線を行き交う。この過程でメディアの暴力が主導的に介入する。扇情的報道だけでなく、些細な噂まで拡大再生産し、真実として粉飾するためだ。
歌手のナ・フナさんの事例が代表的だ。彼は一昨年の後半から、数多くの噂に苦しめられた。メディアはとめどなく報道しながらも、ナ・フナさんが公人として直接メディアに打って出て釈明しなければならないと、悠長に忠告したりもした。彼は昨年の初頭、記者会見を開き、芸能人で初めてメディアを直接叱責した。無責任に噂を拡大したメディアを相手に「直接見せれば信じてくれるのですか」と怒りをあらわにした。加害者であるメディアは、それ以上の関連報道はしなくなった。しかし、前後の企画公演をキャンセルするなど、一切の対外活動を中断したナ・フナさんがあらゆる被害を被った。
イ・ドンヨン韓国芸術総合学校教授(伝統芸術院)は、芸能人の人権の特性を、△保障の概念よりも侵害の概念が強く、△侵害の過程で特定事件がメディアにより誇張されて媒介され、△媒介の過程で言語による情緒的暴力が深刻に現れる、とまとめた。そして「芸能人の人権問題は、個人の私生活を保障することも重要だが、個人の私生活がメディアにより、どのように侵害され、歪曲されるのかと深い関係がある」と語った。
法に任せたとしても、「2次被害」を防ぐことは難しい。これは歌手のペク・ジヨンさんに象徴される。元マネージャーのキム某(45)氏がペク・ジヨンさんとの性関係を隠しカメラで撮影し、流布した。人気の高かった2000年11月のことだった。様々なメディアが特集し、事件を拡大再生産した。ビデオ流布の背景とは関係なく、大衆はすでに扇情的で表皮的な報道を通じてペク・ジヨンさんを断罪した。被害者のペク・ジヨンさんは記者会見で涙を流して謝罪した。そしてすべての芸能活動を中止しなければならなかった。
また、6年以上に渡って芸能界から干された。その間、2度アルバムを出し、再起を試みたが、放送局から徹底的に無視された。当事、弁護を担当したチェ・ジョンファン弁護士は、「放送停止が4~5年にも及んだ」、「抗議の書簡を放送局に送り、直接抗議もしたが、イメージが悪い、保護者が抗議してくるという返答しかなかった」と語った。
「中傷コメントを超え、私生活の操縦まで」
ビデオを流布したキム氏は昨年9月、アメリカで捕まり、韓国に送還された。しかし、「パク・ジヨン・ビデオ」の前で躊躇なくピーピング・トム(Peeping Tom)となった大部分の国民は、この事実をよく知らない。キム氏が名誉毀損容疑などで現在、服役中であることも知られていない。チェ弁護士は「ペク・ジヨンさんが被害に遭った程度くらいは、マネージャーが捕まったことも報道されるべきだった」とし、「そうすればこそ反省となり、学習となる」と話した。実際、大部分のメディアは短信として処理した。しかし、そのしみったれた報道が、ようやく治りかけたペク・ジヨンさんの傷を再びえぐるのではないかと憂慮してのことなのかは不明だ。
ペク・ジヨンさんは最近、服役中のキム氏を許してくれという嘆願書を書いた。しかし、実際にペク・ジヨンさんが再び人気を取り戻したとしても、誰からも謝罪されることはない。
情報の拡散・共有が徐々に容易になるほど、芸能人に対する人権侵害の様相も破壊性を肥大させていく。キム・ジョガンス青年フィルム代表は、「最近、ソン・ユンアさんとソル・ギョングさんの結婚を集団的に反対していたファンたちの動きが悪質な噂、中傷コメントのレベルを超えて、私生活を操縦しようという状態にまで発展したことを示している」と指摘した。奴隷契約、性上納などに代弁される芸能産業の構造的問題も、変わる気配が見えない。逆説的に、今では私生活の露出映像が衝撃的なニュースになることはない。
人権の普遍性と芸能人の特殊性が今も、とある録画現場、とあるオーディション、とあるカフェ、とあるニュースの一編で衝突しているかもしれない。問題は、過去のあらゆる事件の起承転結を見たとき、概して芸能人自身が属するプロダクションも、自分を育てたメディアも、さらには法も、絶対に頼るに値しないという点だ。
イム・インテク記者