葛藤ばかりが高まり、メリットのないPSI
『ハンギョレ21』[2009.06.05第763号]
[イシュー追跡]
核制裁の効果と無関係なPSI参加宣言で緊張だけが高まり…
状況によっては北が“行動”に出る可能性も
▣チョン・インファン
「自虐的対北政策だ」
北朝鮮が核実験を電撃実施した翌日の5月26日午前、韓国政府が突然「大量破壊兵器拡散防止構想」(PSI)の全面参加を公式発表したことについて、ホン・ヒョンイク世宗研究所主席研究員は、このように話した。「どういうことだろうか?韓国がPSIがに参加したからといって、北が追加で核生産をできなくなるのか?いや、何の影響もない。現在の南北海運合意書だけでも、韓国の領海を通過する怪しい北の船舶をいくらでも検問検索することができる。PSI全面参加によって、これから検問検索を要請する船舶に対しては、無条件に応じるということを対外的に約束をしたことになった。ミサイルや核兵器関連の物品が出てくればわかるのか、そうでなければどうなるのか?軍事用と民間用、両方で使用可能な物品もあるだろう。このような状況になれば北は強く反発し、結局は葛藤が高まるだけで、我々が得るものは何もない」
»2007年10月14日、日本南部横渚港の近海で開かれた大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)の模擬訓練の中で、米・豪など各国の兵士が大量破壊兵器疑惑物質を載せた船舶を掌握した後、船員たちを審問する場面を演出して見せている。写真REUTERS/KIMKYUNG-HOON
ブッシュ行政府のオーダーメイド型対北封鎖政策
PSIは核・ミサイルなどの大量破壊兵器(WMD)とその運搬手段をはじめとする関連物質の拡散を遮断することを目的とした、アメリカ主導の緩やかな国際共助協議体だ。ジョージ・W・ブッシュ行政府時代の2003年5月末に公式発表されたが、韓国政府は南北関係に与える波及などを考慮してこれまで全面参加を躊躇していた。北の反応があまりにも激しかったからだ。実際に北朝鮮は「南朝鮮がPSIに全面参加した場合、これを“宣戦布告”とみなす」と何度も警告してきた。今年に入ってからも、3月に祖国平和統一委員会のスポークスマン談話などを通じて何度も声を高めたことがある。“苦悩”した反応には理由がある。計算してみよう。
2002年12月9日、アラビア海を進んでイエメンに向かっていた北朝鮮の貨物船ソサン号を、スペイン艦2隻が拿捕した。スペインのフェデリコ・トリリオ国防長官(当事)は、「ソサン号に載せられた4万砲台のセメント・ダミーの下にコンテナ23個が隠されていた」「その中からスカッドミサイルの完成品15基、高性能通常弾頭15個、未確認化学物質83ドラム分量とその他の未確認兵器などが発見された」と発表した。いわゆる「ソ・サン号事件」だ。
「敵対行為禁止」停戦協定違反の騒動
米国家安保局(NSA)は、ソサン号が北朝鮮を出発する前からスカッドミサイルなどが船積みされることをキャッチし、これを追跡してきたのだと伝えた。イラク侵攻の準備が最終段階に入った頃だった。米情報当局は、ミサイル購入国がイラクである可能性もあると判断し、スペイン海軍にソサン号の拿捕を要請した。しかし、ソサン号拿捕の知らせを伝えた直後、イエメンのアリ・アブドラ大統領は「北朝鮮に4100万ドルを渡し、ミサイルを購入した」と強く反発した。ソサン号は合法的な貿易信用帳まで持っていた。ソサン号を米軍基地があるインド洋のディエゴガルシア島に曳引していた米海軍は、結局、拿捕2日後にソサン号のイエメン行きを許容するしかなかった。
対面が傷ついたブッシュ米大統領は、事件直後、「大量破壊兵器との戦闘に関する国家安保報告書」を発表し、いわゆる「悪の枢軸」として注目されている北朝鮮とイラン、イラクに対する予防的先制攻撃戦略を明示した。そして翌年の5月31日、ブッシュ大統領はポーランドのクロコフを訪問した席で、PSIを公式に発足させるに至った。チョン・ウクシク平和ネットワーク代表は「PSIを触発させた契機も、その目標も北朝鮮」だとし、「PSIは出発から事実上、ブッシュ行政府の“オーダーメイド型対北封鎖”政策だった」と指摘した。
南側のPSI全面参加発表に対する北の反応は、予想通り激しいものだった。北朝鮮は5月27日、「朝鮮人民軍板門店代表部」名義で声明を出し、南側のPSI全面参加を「国際法はもちろん、交戦相手に対して“どのような種類の封鎖”もできないようにした朝鮮停戦協定に対する乱暴な蹂躙であり、明白な否定」だとし、「(これで)戦争でも平和でもない我が国の不安定な情勢は、いつ戦争が起こるかわからない極限状態へ駆け上がっている」と主張した。人民軍板門店代表部が出てきた理由は何だろうか?板門店代表部は1994年に北朝鮮が停戦体制を平和体制に転化することを要求し、既存の軍事停戦委員会の代わりに作られた機構だ。“停戦協定”を次の段階へ移すという意味だった。
北側はこれまでPSIによる陸・海・空封鎖が「陸上・海上・空中での一切の敵対行為禁止」を規定した停戦協定14~16条に違反するという点を強調してきた。特に停戦協定第15条は「陸地に隣接した海面を尊重し、湾口に対してどのような種類の封鎖もできない」と念を押している。しかしPSIは、大量破壊兵器関連の物品を載せたと疑われる船舶に対する停船・臨検・抑留などの措置を規定している。これが“軍事的強制措置である封鎖”というのが北の論理だ。完全に間違っているわけではない。このため、国会立法調査署は今年の5月11日に打ち出した「大量破壊兵器拡散防止構想の現況と争点」という題の懸案報告書で「韓国のPSI完全加入を理由に北朝鮮が今後、挑発行為を国際法的に正当化しようとする場合に備えた論理を開発する必要がある」と指摘している。
板門店代表部が声明で「停戦協定の拘束力の喪失」と「軍事的行動」を警告したことにより、米韓連合司令部は翌日の5月28日に対北朝鮮情報監視態勢である「ウォッチコン」を3段階から2段階に上げた。一部では「北が事実上、戦争を宣布したのではないか」という極端な解釈も出ている。一見、とてつもなく見えるのは事実だ。しかし、声明文をじっくり読んでみると、少し違った解釈もできそうだ。北朝鮮が強調した内容は、大きく分けて3つだ。
第一に、PSI全面参加を北に対する「宣戦布告」と見なすとした。「どれほど些細な敵対行為であっても、我が共和国(北朝鮮)の自主権に対する受容できない侵害と見なし、即時かつ強力な軍事的打撃で対応する」とも強調した。言葉の水位は高いが、文章自体は「条件文」だ。「敵対行為」があれば、強く「対応」するということだ。
第二に、「これ以上、停戦協定の拘束を受けない」とした。「アメリカの現執権者が対北朝鮮圧殺策動に熱を上げる余り…傀儡どもをついに大量破壊兵器拡散防止構想に巻き込んだ状態」であるためだということだ。しかし、「事実関係」が間違っている。アメリカが巻き込んだのではなく、韓国政府が自発的に全面参加を決定したのだ。南側ではなく、アメリカを狙った主張だと思われる理由だ。
第三に、「西海、北方五島(白翎島・大青島・小青島・延坪島・牛島)の法的地位と周辺水域を航海する船舶の安全を担保にすることはできない」と脅迫した。西海交戦の悪夢を想起させる言葉だ。だが、ここでも解釈の余地は残されている。「我々も必要ならば」ということや、「まず我々に接近した者たちは」ということを前提にした発言だからだ。イ・ボンジョ元統一部次官は、このように指摘した。
第二次西海交戦でも起きればどうすれば…
「北の声明を噛み砕いて読めば、先制的に“挑発”をするということではない。少し積極的に解釈しても、この程度の表現ならば、それに相応する“行動”はないかもしれない。北としては、かなり慎重で節制された立場を明らかにしたようなものだ。対応をするに先立ち、その意図を綿密に検討しなければならない。カマをかけて不用意な対応をしてはならない。ややもすれば危機を招きかねないからだ」
今は朝鮮半島をめぐる危機の影が、かつてないほど濃い。緊張感は果てしなく高まった状態だ。「状況」が作られれば、北朝鮮が「行動」に出る公算が大きく見える。イ・ボンジョ元次官は「結局、我々がどう対応するかにかかっている」と強調した。北の「誤った判断」を阻止するためには、南も「誤った判断」を避けなければならないということだ。一触即発、厳重な状況だ。慎重にならなければならない。
チョン・インファン記者